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「……絶対に、勝てないの?」
「少なくとも、数の上では勝ち目がありません。ここに居る我々だけでは、確実に負けるでしょう」
「……ここにいる人だけじゃ?」
アルマの脳裏に、シナヴァリア達が助けにきた場面が蘇った。
ほんの少し前の光景。インティが彼女の傍に寄り添い、首都内の者達が決起したことも、記憶を走る。
「よくないね、やっぱり……あたし、一人だけで思い詰めてたんだね」
「……」
「シナヴァリアさん、あたしやっぱり戦うよ」
「姫様、そんなことを――」
「ううん、あたしだけじゃない。みんなで戦うの!」
アルマの口にした言葉の意図が理解できず、シナヴァリアは硬直した。
「インティさんがそうだって教えてくれたし、シナヴァリアさん達も教えてくれたよね」
「なにを……」
「あたし、巫女だからってずっと一人でどうにかしたいって思ってたの」
彼女が卵を一瞥すると、鞘状の塊からは小型のコックローチ型が無数に這い出しているのが目に入った。
「でもね、あたしにはなにもできなかったの。でもそれって、今までもずっとそうだったなぁって」
「宰相! 命令を!」騎士が言う。
「あたしは他の巫女みたいに強くないから、一人じゃ戦えなかったの。でも、だから……みんなを応援して、みんなと一緒に戦えると思うの」
ダーインは二人の会話を聞きながらも、「皆、時間を稼げ! 魔物を首都に近付けるな」と激を飛ばした。
「やっと分かったの。だから……あたしはみんなを守るんじゃなくて、みんなを応援するって決めたの」
それを言い終えた瞬間、凄まじい速度で《魔導式》が刻まれ出した。
――いや、《魔導式》が集まっているのだ。首都である光の国から、光る文字が集まり、彼女の周囲に整列していく。
「これは……」
「エルフの技法、ですね」
シナヴァリアはダーインの方を見やった。
「エルフの技法……それはあの男が到達できなかったという」
「驚くこともありますまい。姫はエルフの血を引いている――とはいえ、まさか使えるとは思いませんでしたが」
無数の《魔導式》、それは彼女由来のものではなかった。
地の底を走る正の力に助けを求め、その呼びかけに応えた力達が自発的に集い、彼女の為に働いているのだ。
卵より生まれ出でた魔物の幼体を前に、近接の騎士達は死力を尽くし、押しとどめていた。
そんな戦いを見ていた紅瞳の魔物さえも、アルマの元に異常な速度で収束していく《魔導式》を見て、反応を示した。
「それが《秘術》ってものかしら? 無駄と言うことを知らないのね、あなた達は」
術者の上級術が放たれ、幼体に命中するが、当然のように全く効果を示さない。
「悪足掻きにもならないわね」
シナヴァリアも、ダーインも、それは否定できなかった。
既に一戦戦っているだけに、この超巨大な魔物が生み出す魔物がどれだけ強い耐性をもっているのか、それが痛いほど分かっているのだ。
しかし、全くもって絶望しているわけではない。
このどうしようもない状況の中、全く諦めたような顔をしていない――むしろ、自身満々にも見えるアルマを見て、希望を持ち始めていた。
煌びやかな黄や白の光に包まれ、彼女が導き、紡ぎ上げた《魔導式》が完成した。
「みんな友達! みんな主人公! 《星絆》!!」