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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
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17y

 彼が反教会勢力を纏め上げさえすれば、すぐにでも現状の問題は解決するはずだった。


 ――だが、運命はそれを許そうとしない。


 少し離れた場所に立っていたシナヴァリアが、何かに気付いたように目を鋭くした。


「姫様」


 距離はあったものの、アルマは彼の声に気付き「どうしたの?」と返答した。


「魔物はこちらに向かっていますか?」

「えっ? ……うん、何か来てる。それも、すごい速さで」


 やはり、といった様子で冷血宰相は彼女の傍に近づいた。


「ダーイン、話の時間は取れなくなった」

「……分かっています。ですが、この反応はおかしい」


 気付いているのは、ごく少数だった。

 そして、その少数は明らかに異様な反応に驚くのではなく、あり得ないものであるかのように感じていた。


 それもそのはずだ。たった一つの反応にもかかわらず、その魔物は途轍もない魔力を放出し、その上で羽虫以上の速度で移動を続けているのだから。



 シナヴァリアが皆に連絡を行ったことで、軍人達は戦闘態勢を取り、第二波に備えた。


「姫様、魔物の姿は見えませんが……魔力の反応も」

「うん、すごく遠いの」

「ですが、そこまで遠ければ問題はないのでは」

「……こっちに来てるの。それに、すごい速いの」

「速い……?」


 学生上がりとはいえ、インティは術者の中ではかなり上位に入る使い手であり、探知能力も並の術者より冴えていた。

 その彼が察知できない領域ともなると、危険視する必要もなければ、今すぐに備える必要もない距離である。


 しかし、その範疇に魔物が入った瞬間、彼も気付いてしまった。


「これは……! こんなことは」

「術の用意をしよ」

「……はい」


 信じられない速度だった。

 その反応は藍眼のそれを遙かに上回る魔力を有しながらも、驚異的な速度で移動を続けているのだ。

 これは瞬発力によって発生する一時的な加速などではなく、安定した高速移動である。


「目視! ……は、速い」


 観測手が言葉を発した瞬間、アルマ達は意識を切り替えた。


「来る。全軍、衝撃に備えろ」


 黒い塊は、土煙をあげながら接近し、小さな点は一瞬のうちに巨大なシルエットに変化した。


 途轍もない衝撃波により、地面から足が離れる者が続出し、次々と吹き飛ばされていくかに思われたが……。


「《風ノ二百十四番・遮絶風陣ウィンドヴェール》」


 緑の力場が形成されると、黒い魔物の放つ衝撃を突風によって相殺し、陣形の崩壊を寸でのところで押しとどめた。


「《光ノ二百二十番・昇陽照光(ライジングサン)》」


 アルマの《魔導式》は大気に溶け、一つの光球となった。

 それは空へと向かう最中に大きさを増していき、天上に到達した時には、小太陽というサイズにまで膨らみ上がった。


 光属性を強化する効果の他、純粋な威力としても人間を焼き焦がすほどの光線が常時放射され続ける。魔物であれば、ひとたまりもない攻撃だ。

 だが、それだけでは止まらない。


「断罪せよ《光輝の処刑(ドゥームズレイ)》」


 ダーインが用意していたのは《秘術》。幾千、幾万という光の刃を相手に突き刺し、拘束と攻撃を同時に行う強力な術だ。

 無数の光刃は黒い魔物の体目掛けて放たれ、次々と突き刺さっていく。


 アルマの発動させた術の効果もあり、ダーインの《秘術》は平時の威力よりも高く、鋭さも普段の比ではない。

「すごい……」


 《魔導式》を刻んでいる途中のインティはあまりに凄まじい攻撃に、呆然となっていた。

 それは彼だけに限ったものではなく、騎士団、そして術者に至るまでその驚異的な光景に息を呑んだ。


「まったく、遠慮がないのねぇ」


 光と音の奔流の中、確かにその声は聞こえた。

 ただ、それは人間のそれとは明らかに違い、爆音といっていいほどの声だった。


 誰もが混乱する中、答え合わせでもするかのように、黒い魔物は進撃を開始した。


「なっ……あの攻撃の中、進むだと」


 常に冷静なシナヴァリアが、あり得ない展開を前に驚きを滲ませた。


「衝撃は防げても、この巨体までは防げないでしょうねぇ」


 風の壁に向かって突進を行った瞬間、二百番台という驚異的な順列の防御術が、ただの一撃で粉砕された。

 導力の破片が散らばり、緑色の粒子となって消え去っていく。


「馬鹿な……あれだけの光属性をものともしないなど――まさか」

「そのまさか、さ。よくも、私の可愛い子供達を殺してくれたねぇ」


 「きぇっ」という叫びが放たれた瞬間、黒い魔物を包囲していた光の刃は一つ残らず砕け散り、上空に止まっていた小太陽さえも崩壊した。


「光属性が通用しない魔物……そんな存在があるなんて――」

「ううん、いるよ。シナヴァリアさん達が戦ったっていう魔物も、そうだったって」

「ですが、これは……こればかりは」


 シナヴァリア達が苦戦を強いられたのは、もっと小型な種類だった。

 しかし、この魔物はそうではない。体躯は藍眼のそれを遙かに上回り、一つの村に匹敵するのではないかというほどだ。


 煌びやかな導力の断片に照らされ、その姿が鮮明になっていく。

 長い触覚を持ち、黒い薄羽を有した六つ足の魔物――その尾は竜尾の如く長さを持ちながらも、昆虫のそれを思わせる形状をしていた。


 そして、コオロギを想起させる顔には、紅色に煌めく双眸が存在していた。

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