14y
戦線が安定し出した頃、シナヴァリアが単身でアルマのもとに現れた。
「シナヴァリアさん!」
「救援の遅れ、謝罪いたします」
「ううん、大丈夫! ……でも、向こうは大丈夫?」
「適材適所、というところでしょうか。あちらには適任の男を置いています」
アルマは首を傾げるが、彼は明言することを避けた。
「ダーインさんも来てるの?」
「はい。彼は現在、部隊の指揮を執っています――私がここに来た理由は、分かりますね」
「一緒に戦うんだよね!」
「いえ、姫様には避難してもらいます」
聖女は目を大きく見開き「なんで!?」と問い質した。
「お立場をお考えください。あなたの代わりはいないのですよ」
「……」
「シナヴァリア様、それは宰相としての命令ですか。あなた個人の意向ですか?」
彼女の隣に控えていたインティが割り込んできた。
シナヴァリアは露骨に不快感を滲ませるが「お前が知る必要はない」と穏やかに答えた。
「私は姫様から直々に、護衛を任ぜられました。聞く権利はあります」
仏頂面の宰相は姫の顔を見て確認を取るが、彼女は彼の意図に反するように頷いた。
呆れたような仕草を見せた後、彼は低い声で「国としての意志だ」と断言した。
「ならば、従う理由はありませんね。あなたは今、宰相ではない――姫様の意向を優先すべきだ」
「学生上がりがよく言う」
「気に入りませんか?」
二人がどことなく険悪なムードを醸し出したからか、アルマは仲裁に入ろうとした。
「ふ、二人とも……やめようよ」
「……いや、構わない。姫の護衛、ご苦労だった」
若い術者は笑みを浮かべ「だと思いましたよ。さすがは宰相、私が思った通りの人です」と言った。
アルマはよく分からなかったものの、二人が喧嘩をしなかったことに一安心した。
「しかし、姫様には一つ約束してもらいたい。もし、身に危険が迫ったとあれば、何よりもご自身を優先するように――できますか?」
「う、うん……なるべく頑張るよ」
「……非常に不安ですが、いいでしょう」
シナヴァリアから許可を勝ち取れたことを喜ばしく思う一方、口添えをしたインティに感謝を示すように、頭を下げた。
彼は黙ったまま小さくお辞儀をし、礼に応えた。
「――とはいえ、このままであれば勝利するのも時間の問題でしょう。姫様には後方からの支援に徹していただきます」
「えっ、それでいいの?」
「はい。あの者達は連日魔物と戦う、熟練の兵です。完璧な支援さえ与えれば、藍眼の魔物にさえ苦戦することはありません」
藍眼を容易に撃破する、というのは他国では考えられない強さだった。
しかし、それもそのはずだ。彼らは日夜進化を続ける魔物と戦い続け、その変化にも対応して生き残ってきた者達なのだ。
一人一人が幾度も死線を越え、極限まで研ぎ澄まされた刃の如く鋭さを有している。
「みんな、頑張ってくれてるんだよね。うん、分かったよ! あたしは全力で応援するよ!」
シナヴァリアは会釈し、「では移動しましょう」と言った。