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インティの言葉を聞いてすぐ、彼女はそれを感じ取った。
魔物大群に隠れているが、確かに光属性の魔力が無数に近づきつつある、と。
「これって!」
「はい、戦場に出ていた部隊が今、首都に戻ってきています。ですから、我々は彼らが戻るまでに守り切れば、それで勝ちです」
ようやく勝利条件が明らかになったからか、アルマは気力を取り戻し、完成させた《魔導式》を起動させた。
「《光ノ二百番・超流星群》」
彼女はインティの用いた術よりも、さらに上位の術を発動させた。
降り注ぐ光球の大きさもさることながら、その周りを焔の如き光の粒子が纏い、破壊力が拡張されていた。
さすがは《光の星》というべきか、部位欠損がやっとだった他の術と比べ、一撃一撃が確実に羽虫の命を奪っていく。
「おぉ、さすが姫様」
「みんなのおかげだよ! あたし一人だった、絶対にこんな戦えていなかったもん」
謙遜のようだが、心が折れる寸前にまで至っていただけに、本音と言うことが分かる。
ただ、それを知らない若い術者は姫の気丈さに関心しながらも、《魔導式》を刻み続けた。
羽虫の撃墜が進む中、ついに軍勢の最前列が城壁に到達した。
その巨体を生かした突進は分厚い壁を揺らし、構造物を砕き、破壊していく。
「思ったより魔物の動きが早いみたいですね」
「どうしよ」
「……あれを見逃す、というのは危険ですね。我々が迎撃に当たるしかありません」
「うん、そうだよね! じゃあ、いっくよぉ――」
完成した《魔導式》を起動させようとした瞬間、割り込むような詠唱がどこからともなく聞こえてきた。
「《風ノ二百五十五番・極災塵大嵐》」
放たれたのは風属性の最上級術。これほどの順列を用いることができる風属性使いは、この国に一人しかいない。
「シナヴァリアさん!」
返答はなく、無数の巨大竜巻が発生し、魔物の群れをかき乱していく。
対人戦であれば、ただの一撃で隊列を破壊する術なのだが、相手が魔物ともなるとそうはいかない。
多くの魔物が無数の足で踏みとどまり、吹き飛ばされないようにする――が、それによって風の斬撃がよりいっそう深く刺さっていく。
圧倒的な火力によって眷属はもとより、鈍色の瞳を持つ魔物さえも消滅していった。
「さすがは……いや、我々も負けていられませんね」
「うん!」
火力で言えば、アルマの最上級術の方が勝るだろう。
ただ、彼女の術は戦いの中で研ぎ澄まされたわけではなく、技倆ではシナヴァリアが一歩上を行く。
「おぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!」
攻撃が中断するや否や、雄叫びが轟き、軍の人間が一斉になだれ込んできた。
あの無数の竜巻により、魔物の陣形は大きく乱れ、一塊の部隊が移動できるだけの隙間が生じた。
まるで川を流れるように、騎士達は隙間を走り、魔物の繋がりを切断していく。
包囲して一気に畳み込む、というのが大型の魔物と相対する際の戦術である為、これは理想的な状況だった。
全員が全員、光属性の術によって運動能力を強化しており、風の一族を思わせる動作で次々と飛びかかっていく。
さすがに対魔物戦の最前線に立つ者達というべきか、生き残った鈍眼の魔物はもとより、藍眼の魔物さえも速やかに撃破されていった。
無論、アルマや首都内の戦力も八面六臂の活躍をし、空を覆い尽くす羽虫を駆逐する。
一度は終焉かと思われた戦況が、一気に覆された。