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その後も榴弾の投擲は続き、城壁には大穴が開いた。
そこからは羽虫が侵入していき、空中は彼らの隊列によって帳が降りたように見えた。
アルマは急ぐが、幾ら急いでも彼女の走る速度は子供のそれでしかない。
ようやく正門に到着した頃には、既に彼女一人の手には余る状況となっていた。
「どうして……どうしてこんなことに」
後悔する時間さえ惜しむべきだが、彼女はもはやそんな当たり前のことさえ分からないほど、気力を削がれていた。
そんな彼女の頭上を飛び越え、魔物の放った榴弾が一つの施設に着弾した。
そこは、彼女が確認した限り、人が集まっていた地点だった。
叫び声は爆音にかき消され、無数の人の命が爆炎の中に消えた。
背後には黒煙が立ち上る町が、正面には迫り来る大型の魔物が、空には羽虫が在った。
ライトロードは、完全に包囲され、破壊を待つだけとなった。
「やっぱり、あたし……なにもできなかった。善大王さん、ふーちゃん……ごめん」
崩れ落ちたアルマの顔は、絶望に染まっていく。
「姫様!」
「……! インティ、さん?」
「姫様は空の魔物を! これ以上、魔物の好きにはさせません」
「でも、もう駄目だよ」
「……空を見てください」
見上げた瞬間、アルマは目を大きくした。
無数の光芒が走り、空を飛び回る羽虫を打ち落としていく。
爆弾を抱えた羽虫を打ち抜いた時には、爆発が連鎖していき、煙が雲のように広がった。
「えっ、これって」
「ほんの少しの抵抗でしかありませんが、首都で戦える者が皆、戦っているんですよ」
「でも、こんなにいるなんて……」
「学生にも手を借りています。彼らでは羽虫を仕留めることはできませんが、時間を稼ぐことくらいはできます」
彼女がただ一人で戦おうとする中、多くの者が立ち上がり、この国を守ろうとしていた。
「姫様!」
「……分かってるよ。あたしだって、まだ頑張れるから」
深い絶望は身を滴り落ち、彼女は再び立ち上がる機会を得た。
凄まじい勢いで刻まれていく《魔導式》を見て、インティは口許を緩めると、同じように展開を開始した。
黄色の光が空を踊り、空を覆う黒い幕は穴の開いた傘のようになっていく。
とはいえ、こうして倒しているのは羽虫。本命とも言える大型の魔物は依然として接近を続けている。
「外の魔物を倒さなくてもいいの?」
「今はとりあえず、羽虫の撃破を。奴らは爆薬を持ち、空から首都を攻撃してきます。外の魔物であれば、まだ時間があります――それに」
「……それに?」
インティは被りを振ると「《光ノ百十二番・流星群》」と詠唱を行った。
無数の光弾が羽虫達よりも遙か高い地点から降り注ぎ、翅などを引き裂いていく。
「今できることをやるだけですよ。そうすれば、きっと奇跡は起きます」