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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1134/1603

11y

 しばらく倒れていたアルマだが、ゆっくりと立ち上がった。

 涙は止まらないが、血は既に止まっている。彼女にはもう、痛みはなかった。


「いか……なきゃ。あたしが、みんなを、助けなきゃ」


 筋肉が露出し、黄色い脂肪が吹き出していた傷口は塞がり、抉られた欠損は寸分の狂いなく補填されている。

 それを確かめてしまったからこそ、いくら辛かろうとも、痛みが怖かろうとも、彼女は立ち止まることができなくなった。


 この光の国にいる限り、彼女は死より最も遠い位置にいる。それを知る者は、決して多くない。

 誰かに頼ることはできない。頼ってしまえば、誰もが彼女を戦場から遠ざけるからだ。


「あたしが……あたしが、守るの。善大王さん達の帰る場所は、消させたりしない!」


 痛みの痕跡や恐怖は塗りつぶされ、彼女はまるで負傷などなかったかのように、再び走り出した。

 あの一戦があったからか、彼女の頭は急激に冴えていく。

 どこかとぼけた(・・・・)ような思考は洗練され、目下(もっか)必要な項目に優先権を付けていき、実行していく。


「魔物が入っているなら、調べないと……」


 彼女はそう呟くと、地面に触れた。

 瞬間、アルマの意識は《光の門》と接続し、首都を走る網目を辿っていく。


「(……変な場所にいる人が)」


 そこで接続は解除され、彼女は目を大きく見開いた。


「魔物だ」


 確信を得た彼女は早かった。

 該当した地点を暗記し、付近に到達した時点で魔力の照合――魔物のそれに近ければ術を発動させるという具合だ。

 アルマは目視さえすることなく、魔物を次々と打ち抜いていく。見てしまえば、少なからず心が揺れると判断したのだろう。


 凄まじい速度で魔物は撃破されていき、半刻もなく駆逐された。

 最後の確認のように、彼女は再度《光の門》と繋がり、首都の状況を調べた。

 無論というべきか、無事に全個体の撃破に成功したことが分かる。


「はぁ……これで、みんな助か――」


 言いかけて、彼女は思い出した。

 彼女が撃破した、国内の魔物の他、外からも大群が到来していると。


 思った以上に規模が大きかった為か、彼女は完全に油断していた。


「なら、急がなきゃ。絶対に、間に合わせてみせるから」


 彼女の足は休まることもなく、再び地面を強く打った。

 疾く駆け、彼女は正門に向かう。外で魔物を迎撃しなければ、町に被害が広がると判断したのだ。

 だが、魔物は既にそこまで迫っていた。


 藍色の榴弾が城壁に命中し、炸裂する。その爆音に驚き、アルマは両手で耳を覆う。


「な……に?」


 細めた目を開けると、再び砲撃が放たれた。今度は城壁を飛び越え、幾つかの住居を吹き飛ばす。


 唖然としたアルマだが、そこに人が居ないことは分かっていた。

 幸いというべきか、《光の門》に接続したことで人の分布は分かっていたのだ。問題は、この攻撃に驚き、民が無作為に散ってしまうこと。


「急がなきゃ、早くしなきゃ」


 急に焦りが脳天に巡り、アルマは冷静な判断力を失った。

 本来ならば、魔物が迫ったと分かった時点で逃亡を進めるべきだった。先ほどは通用しなかったが、いざ出現したとなれば、話は変わってくるのだ。

 国外に逃れられないにしろ、大聖堂に避難させるなど手はいくらでもあった。


 ただ、今の彼女にそれを要求するのは酷かもしれない。今のアルマは、自分の力だけでどうにかしなければならない、と切迫していたのだ。


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