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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
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9y

 状況を打開する為にも、彼女は早急に人々へ魔物の存在を伝える必要があった。

 しかし、出てすぐに問題点に気付いてしまう。むしろ、出るまで微塵も、問題があるとは思っていなかったのだ。


「みんなに言わなきゃいけないけど、言ったらみんな……驚いちゃうよね」


 教会の使者がそうであったように、町はいつも通りの日常に包まれていた。

 重税の解消、そして祈祷による労務などが人々の精神を安定させ、こうした日常を引き戻したのだ。


 だからこそ、ここで急に魔物が現れたという絶望的な現実を知らせれば、彼らの心の落ち着きは一瞬で崩れされることになる。


「でも、言わなきゃ。教えなきゃ。みんなを助けるために」


 良くも悪くも、彼女は単純だった。

 だからこそ、迷っても最後には行動できる。

 だからこそ、(あやま)ちに向かって走ることができる。


 町ゆく人々は一人で走るアルマを見て、何事かと注目していた。


「みんな! 広場に集まって!」


 走りながら、彼女は呼びかけていく。

 当然、聖女の言葉である為、皆が彼女の後を追っていく。

 老人はゆっくりと、大人は歩くような速さで、子供は彼女に追いつきかねない走りで。


 そうして行列を伴いながら、彼女は広場へと到達した。


「みんな、こんにちは!」


 皆はアルマの言葉を復唱するようにして、呑気にも見える挨拶を行った。


「今日はみんなに、伝えたいことがあるの」


 真剣な顔つきに変わったこともあり、広場のざわつきは小さくなり、子供の興奮するような声だけになった。


「今、首都に魔物が近づいてきているの。それも、たくさん。だから、みんなには一度、ここから逃げて欲しいの」


 彼女はあっさり、そんなことを言ってしまった。

 しかし、誰もがアルマの言葉を信用せず、何かしらの冗談だと判断していた。


「聖女様、そんなことがあるはず……」

「ここ最近魔物も出ていないし」

「ううん、見たの! お城の高いところから、遠くに見えたの!」


 彼女が真面目に力説するのを見て、大人達は不安を覚え始めた。

 他の者ならばともかく、彼女がここまで大それた嘘をつくはずもない、と分かっていたのだ。


「みんなが逃げるまで、あたしがここで食い止めるから。急いで逃げて!」

「……魔物が? 騎士団はどうしたんだ!」

「首都にはほとんど騎士がいないんだぞ! このままじゃ、全員殺されちまう」

「えっ、ちょ、ちょっとみんな!」


 アルマが切り捨てた最悪の状況、それが現実のものとなってしまった。

 錯乱を起こす者、ばらばらに逃げ惑う者、諦めきって祈り出す者――そのほとんどが、彼女の意図から外れた行動であった。


 この混乱を収めようと、彼女は声を張り上げて皆に呼びかけるが、それをかき消すほどに民の不安は高まっていた。


「みんな、聞いて! 大丈夫だから! あたしが、みんなを守るから!」


 それでもやはり、声は届かない。

 彼女はそれでも諦めず、何度も呼びかけ続けた。急がなければ、魔物が襲来すると言うこともあり、焦ったような声で言い続けた。


 そんな時、鳳仙花(ほうせんか)が弾けるように、大きな声が散った。


「静まれ!」


 そうした声が無数に飛ばされたことで、民は僅かばかりに冷静さを取り戻し、声に耳を傾けた。


「皆、落ち着くことだ……問題はない、この地は神に守られているのだ」


 その言葉を発したのは、教会の長である法王バールだった。


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