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――光の国、ライトロードにて……。
一週間という明確な時間を知ってから、アルマは不機嫌になることもなく、城の中で大人しくしていた。
今日は六日目であり、明日には城の外に出られるという具合である。
見張りは付くことになるだろうが、それでも外部に出られれば情報を収集することも可能になる。
アルマは自分の力でこの状況を打開する、と気合いを入れており、長い一日を過ごしていた。
「早く明日にならないかなぁ」
そんなことを言いながら、彼女はベッドの上でうつ伏せになり、足をばたつかせていた。
長らく気が張り詰めてばかりだったこともあり、この六日間は久しく子供らしく振る舞える日々だった。
だが、そんな平穏を壊すように、扉が開け放たれた。
「姫様! ただちに城を発ちます!」
「えっ、えっ?」
あまりに唐突な対応に、アルマは純粋に困惑した。
いつもであれば礼儀正しく、ノックをしてから部屋に入ってくるインティがいきなり入ってきたのだ。この驚きようも仕方がない。
とはいえ、彼女も薄々気付いていた。彼がそんな無礼を働いたということは、それだけ緊急性のある事が起きたと。
「無数の魔物が、首都に攻め入ってきました」
「……シナヴァリアさん達は? 戦っていたみんなはどうなったの!?」
「分かりません。あちらとの連絡は――ですが、今の我々ではあの数には相対することができないのは確かです」
まさにその通りだった。
彼女が締め切ったカーテンを開けた瞬間、遠目にも分かるほどの大軍勢が迫っている様が見えた。
「もう、あんな近くに……?」
「意図的に情報を隠していた、と考えるのが無難かと」
「……逃げる? みんなは!? みんなはもう逃げてるの?」
インティは首を横に振り「城下町からでは目視することはできません。気付けたのは、我々が高所にいたからですよ」と言った。
「じゃあ、早く伝えなきゃ!」
「城は封鎖されています。おそらく、情報を閉じ込める為に」
「えっ、じゃあ外に逃げるのは……」
「逃げる、だけであれば可能です。《魔技》によって落下の衝撃を軽減することで。ただ、城に残っている兵の多くは、姫様を置いてはいけなかったようです。私も、ですが」
「……みんなは、助けられないの?」
「正直、一人として城の外に出なかったのは……彼らが言ったところで、納得しないだろうということもあります」
教会が主権を握ってからというもの、民はより夢想的になっている。
良くも悪くも、今のインティは教義よりも現実を重視している。実際の戦場を見たからこそ、教会の洗脳が薄れていたのだ。
だが、一度として現実を見ていない壁内の民達からすれば、教会の絶対性は僅かにも揺らいでいない。
「教会の台頭を許した国防部隊の失態です。ですが、姫様だけは確実に逃がしきります」
「やだ! あたしは逃げたりしないもん! 絶対、みんなを守ってみせるから」
インティは少し困ったような顔をした後「姫様、今の教会に対抗できるのはあなただけ、なんですよ」と言い聞かせる様に言った。
「じゃあ、あたしが説得に――」
「姫様は別の集落を巡り、味方してくれる人を集めてください。聖女の言葉ともなれば、教会を裏切ってでも付いてきてくれる人がいるかもしれない」
この詰んだ状況を打開するには、それしかなかった。
この魔物の襲撃から逃がさない為――いや、気付かせない為にアルマを軟禁していたことから、説得に応じないであろうことは明白である。
なればこそ、多くの仲間を集め、多数派となることで教会の信者を奪い返す他に手はなかった。
「インティさんは、どうするの」
「私は……いえ、城に残っている兵は、姫様の離脱を確認し次第、魔物と交戦します」
明るい笑みを見せたが、彼が死地に赴こうとしていることはアルマにも分かった。
「そんなのってないよ……あんまりだよ」
「もし、人が集まらないようであれば、戦場に向かってください。もし、もしも部隊が残っているならば、姫様の助けになるはずです」
それを言うと満足したのか、「では、行きましょう」と急かした。
「……やだ!」