表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1129/1603

6C

 ――東部戦線、幕営にて……。


「宰相、こちらはひどい状態だ」

「……そちらに限定したものでもないだろう」


 タグラム失脚の影響は、戦場を火の車に変えた。


「呼んでもいない増援、求めてもいない新兵……首都は我々を忙殺(ぼうさつ)させるつもりかね?」

「それは、ダーインの方が分かっているのではないか?」


 それを言われ、ダーインは肩を竦めた。


「ああ、その通り! 教会が主権を握って以降、首都のやり方は滅茶苦茶になっている」


 さすがの彼も、教会主導の政治には凄まじい憎しみを抱いていた。

 タグラムの失敗は見当違いな努力であり、それ自体は紛れもない努力だった。

 だが、教会のそれは戦闘行為への明確な妨害だ。それは彼だけではなく、ただの一兵でさえ理解している。


「確かに、兵站もひどい具合だ。この場で凌ぐならばまだしも、陣を進める余裕はない。人員についても同様で、適切な配置ができていない」

「分かっていて、黙っているつもり……ですか」


 シナヴァリアのあまりに落ち着き払った様子に、ダーインも次第に冷静さを取り戻していった。


「この場を死守するのであれば、よそ見をしている暇はない。それに、軍人とはただ命令に従い、戦い続ける者だ。自分で判断するものではない」

「指揮官が口にする言葉ではないかと」

「全てを決めるのは、国の長だ。指揮官が判断するのは与えられた材料を、どう扱うかという部分――如何に狂気に取り憑かれたような命令であろうとも、従うのが道理」


 本質的に、彼とダーインは違っていた。

 一方は貴族であり、もう一方は生粋の軍人なのだ。


 ダーインは呆れたような反応をし、彼の横に置かれていた椅子に腰掛けた。


「本音ですか」

「そうだ」

「このままなら、善大王様が戻る玉座がなくなりますよ」

「善大王様が戻れば、国家が成り立たなくなったとしても、立ち直らせることはできる。無論、苦難は多いが」


 何かを隠している、とダーインは判断した。


「私に動けと?」

「情報を吐け、とは思っているが」


 その言葉を聞くと、彼は笑い出した。


「教会は間違いなく、魔物と繋がっている」

「証拠は」

「こちらを」


 もとより説得する気だったのか、小脇に抱えていた紙束をシナヴァリアの前に置いた。

 それを日々の執務の如くに流し見ていき、最後の一枚を読み終えた時点で彼は頷いた。


「掴んだのはいつだ」

「つい最近のことですよ。それまで、彼らは尻尾を掴ませてはくれなかった」

「なるほど」

「これで、戦う理由はできた……違いますか?」


 シナヴァリアはしばし頭を抱えた後、まるで悩んでなどいないような顔で「で、あったとしても動く理由にはならないな」と断じた。


「何故」短く言う。

「ここを離れた場合、どうなるかを考えてみろ」

「ここに残って、空腹に殺されろと?」

「そうなる」


 彼の冷え切った対応に僅かな憤りを滲ませ、ダーインは眉を顰めた。


「……全く、分からない男だ」

「それはこちらの台詞だ。ダーイン、何に憤っているかは知らないが、冷静さを欠いた判断は多くを犠牲にすることになるぞ」

「憤るのが当然だろう」

「……教会が魔物と繋がってるのは確定的だ。事実、この陣を襲う魔物が増え、首都方面に向かう個体が減っている」

「分かっていたとしても、動かないつもりだろう」

「防御に徹することで、突破は防げている。だが、背を向けた状態で奴らと渡り合えるとでも?」


 シナヴァリアはただ指示待ちに徹するというわけではなく、飽くまでも自分の頭で考えていた。

 良くも悪くも、彼は軍人の規範には(のっと)らずに動いているのだ。


「それに、教会は今すぐに首都を滅ぼそうとしているわけではない。善大王様の帰還を考えれば、賭けをするべきではない」

「この場に至って、まだ善大王様に縋るつもりか」

「それが臣下の務めだ。ダーインが動こうとしている理由と、何も変わらない」


 それを聞いた瞬間、大貴族は目を丸くした。


「正統王家が新たな統治者となった、ということは聞いている。ダーインが恐れているのは、この悪政の責を押しつけられるという状況だろう?」


 憤る理由は知らないと言っていたが、彼はダーインという男の本質を理解していた。

 それもそのはずだ。彼は正統派の党首であり、正統王家へと向ける敬意はシナヴァリアのそれと同じである。


「……言われてしまえば、反論はできませんな。確かに、冷静さを欠いていたことは認めましょう。ですが、宰相はどこに向かう気ですか」

「有事となるまでは、ここで魔物と戦うだけだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ