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――光の国、ライトロードにて……。
光の国は大きく変わっていた。
それまでの重税に次ぐ重税による民の負担はなくなり、その人ができることをできる限るする、という適切な対応が取られるようになった。
それが成立したのは、教会が本件に介入した為だった。
多くの貴族、軍人は教会の言い分を信じている。当たり前だ、彼らは皆等しく敬虔な信徒なのだから。
だが、それ故に混乱は静まり、教会を頂点とした治世が成り立った。
誰もがそれに疑問を持たなかった。むしろ、教会はこうした有事にこそ民を先導するもの、と自らで判断するほどだった。
ただ、アルマが望んだような展開にはならなかった。つまり、シナヴァリアもダーインも国には戻らなかったのだ。
一応、彼らに召還命令は下されていた。これは姫の要望でもあったのだが、当人等の希望によってこれは拒否されている。
だからこそ、アルマも納得した。戦場には彼らが必要なのだと、自分で補完した。
そして、現状この国を治めているのは正統王家――アルマの父だ。
無論、今までほとんど政にかかわらなかった彼が全てを取り仕切ることはなく、教会が推薦した貴族が補佐に付けられている。
タグラム失脚後、明らかにこの国はよくなったはずだった。
だが……。
「姫様、考え事ですか?」
「……うん」
いつかの踊り場で、アルマは城下町を眺めていた。
そんな彼女の傍にいたのは、国防部隊の――正しくは、元国防部隊のインティである。
「……何を、お悩みですか」
「失踪する人が、増えているみたいなの」
「……そうですか」
教会が政権を握ったことで、国は大きく変わった。
その一つが、タグラム主導のもとに創設された国防部隊の解体。それによって、インティはお役御免になるはずだった。
だが、アルマが咄嗟に彼を自身の護衛に組み込んだ為、戦場に送り返されることは避けられた。
何故、彼女がそこまでしたか、それはもう一つの変化を説明しなければならないだろう。
国防部隊の解体に準じて、首都勤めだった軍人の多くが戦場へと送られたのだ。
それは教会が掲げた、適材適所の政策によるところが大きかった。
多くの富を持つ民は金を、戦う力を持つ者は戦場へと、そして――戦う力もなく、財を蓄えていない民は祈りを捧げた。
それまで重税に喘いでいた民からすれば、これは救いの糸にも等しかった。
税の徴収は止まり、ただ祈りを捧げるだけでいい。それだけで国民としての義務を果たせるのだ。
ただ、それによって大きく生産力が低下した。祈祷の時間は大幅に取られ、労働よりも重視されるようになったのだ。
それを埋め合わせるのは当然、軍人や富豪、貴族といった者達である。
この時点で分かるかも知れないが、今の首都は魔物に対しての抵抗力が大きく削がれていた。
ただ、それは失踪の件とはあまり関わりがなかった。
「魔物の出現はあれ以降、ぱったりと止まりました。失踪についても、姫様が気にすることではないかと」
「……うん」
彼の言うとおり、タグラムの失脚以降、首都内部――それどころか、各地の町村にも魔物は現れなくなった。
今、魔物が暴れているのは戦場であり、そちらは以前の比ではないほど勢いが増しているということだ。
「たぶん、教会の人達がどこかに連れて行っているんだと思うの」
「なら、問題ないのでは? 確かに、彼らのやり方は極端ですが、人間の側であれば」
「……うん」
アルマは具体的に言い出すことはできなかった。
教会が人を連れ去っている、ということは確証を掴んでいた。
しかし、その人々がどうなっているか、については彼女も知るところではない。
ただ一つ確かなのは、連れて行かれた信者が魔物と化していたということ。
アルマは教会が魔物と通じているのではないか、と思っていた。思ってはいたが、それを口にすることを避けていた。
彼女のように地位のある人間がそれを言えば、ただの戯れ言では済まない。
そんな危険な存在が国を統治しているともなれば、民の混乱は想像を絶するものになるだろう。
正体を暴けば、それもやむなしといったところだが、彼女はそれをできるような立場ではなかった。
少し前――近衛騎士の多くが戦地に送られる前であれば、人員を割くことで調査を行うこともできた。
ただし、それは過ぎたことである。彼女のような子供には酷な話だが、決断するタイミングを逃したのだ。