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太陽光が目に当たり、彼は目を覚ました。
「……もう朝か」
あの後、宴は夜まで続いた。無事に帰れた者は自力で戻り、酔い潰れた者は酒場の机に突っ伏して夜を明かしたことだろう。
彼の隣には、スケープがいた。ほどよく酔いが回っていたこともあり、一戦を交えたのだ。
「さて、そろそろ戻るか」
けだるさはなかなか抜けず、手慰みのように隣人の髪をなぞり、上体を起こした。
途端、扉が勢いよく開け放たれた。
「ガムラオルス、フレイア王が……」
「フレイア王が呼んでいるのか。分かった、すぐにいく」
「……」
少し唖然とした後、ミネアは遅れるように両手で顔を覆った。
「な、なにしてるのよ」
「気にするほどでもないだろう。着替え次第、すぐに向かう」
「そ、そういう問題じゃ……それに、ティアは――」
「ふぁあ……あっ、ミネア様。おはよーございます……」
寝ぼけ気味なスケープはすぐに上体を起こし――意識せず、ミネアに裸体を見せることになった。
「かぁー……な、なにやってるのよ! 本っ当に……さ、最低!」
ミネアは勢いよく扉を閉めると、凄まじい速度で階段を降りていく音が部屋にも届いた。
「なんだったんですか?」
「さあな、お前は寝てろ」
「うー……はい。まだ寝ときます」
そう言うと、偽りなく彼女は二度寝を始めた。
ガムラオルスはベッドから出ると、床に落ちている下着をはき、適当に引っかけた服を椅子から取り上げた。
しわを軽く伸ばしてから、部屋の隅に置いてある無骨な肩鎧を装備し、階段を降りる。
一階では思った通り、多くの部下が酔い潰れており、それを一瞥するに留めて彼は店を後にした。
翼を使い、速やかに王宮へと飛び、空を見上げる衛兵達に出迎えられる形で降り立った。
城で彼を止めるものはなく、番兵などはすぐに道を開けていく。
善大王がラグーンで戦っている間に、彼は多くの戦いをこなし、火の国での信頼を確かなものにしていた。
そうして、謁見の間に到着すると、フレイア王……そして、ヴェルギンが待っていた。
「将軍、相変わらず活躍しているようだな」
「……ああ」
若干冗談のような言い方だったが、ガムラオルスは特に気にすることもなく、話を続けようとした。
「さて、将軍に問うておきたいことがあって、今日は呼んだ」
「なんだ」
「……お前はこの国で成果を残し、今や英雄も同然だ」
「……」
「ふん、何か反応を示してほしいのだがな。では、単刀直入に聞こう……お前は今も、風の一族か?」
問いの意味を考え、将軍は「一族と俺は、既に分かたれている」と断じた。
「ふむ……それは都合がいい。将軍よ、お前には風の大山脈を攻略してもらいたい」
そこでようやく、彼は驚いたような顔を見せた。
「風の大山脈の……攻略?」
「そうだ。あの山は今……いや、今まで、どの国の支配下にも落ちていない。つまり、それを手に入れることができれば、我が国の国力は高まる」
理由としては真っ当な返答だったが、かなりズレた答えでもあった。
「何故、この時期に」
「今は戦時中。他国の批判を許すまでもなく、あの山に攻め込むことができる」
平時であれば、戦力を他国に出すという行為は危険である。
事実、《カルトゥーチェの首輪》を盗み出したスタンレーが天の国に逃げ込んだ際も、水の国は天の国に対処を依頼したほどだ。
だが、戦時中の今に限っては、それをすぐさま批判することはできない。
雷の国と水の国が争ったという前例もあり、叱責を一身に受けずに済む、という理由もあるだろう。
「さて、どうする。受けるか、受けないか?」
「……王としての命令だろう? ならばそれに従うだけだ」
驚きこそしたが、この返答に関して、彼は僅かにも迷わなかった。
しかし、それを意外に思ったのがヴェルギンだった。
「ガムラオルス、本気で言っているのか?」
「師匠、俺はこの国の傭兵でしかない。王が命じるのであれば、その仕事を果たし、報酬をもらうだけだ」
ヴェルギンは言い返そうとするが、フレイア王はそれを制し「ハッハッハ、面白い。それでこそ将軍だ」と手を打って喜んだ。
「兵はお前に預けている者達を使え。出発の時期が決まり次第、伝えろ」
「はっ」
そう言い、ガムラオルスは謁見の間を後にした。ヴェルギンとは言葉を交わすこともなく。