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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1126/1603

3f

 太陽光が目に当たり、彼は目を覚ました。


「……もう朝か」


 あの後、宴は夜まで続いた。無事に帰れた者は自力で戻り、酔い潰れた者は酒場の机に突っ伏して夜を明かしたことだろう。


 彼の隣には、スケープがいた。ほどよく酔いが回っていたこともあり、一戦を交えたのだ。


「さて、そろそろ戻るか」


 けだるさはなかなか抜けず、手慰みのように隣人の髪をなぞり、上体を起こした。

 途端、扉が勢いよく開け放たれた。


「ガムラオルス、フレイア王が……」

「フレイア王が呼んでいるのか。分かった、すぐにいく」

「……」


 少し唖然とした後、ミネアは遅れるように両手で顔を覆った。


「な、なにしてるのよ」

「気にするほどでもないだろう。着替え次第、すぐに向かう」

「そ、そういう問題じゃ……それに、ティアは――」

「ふぁあ……あっ、ミネア様。おはよーございます……」


 寝ぼけ気味なスケープはすぐに上体を起こし――意識せず、ミネアに裸体を見せることになった。


「かぁー……な、なにやってるのよ! 本っ当に……さ、最低!」


 ミネアは勢いよく扉を閉めると、凄まじい速度で階段を降りていく音が部屋にも届いた。


「なんだったんですか?」

「さあな、お前は寝てろ」

「うー……はい。まだ寝ときます」


 そう言うと、偽りなく彼女は二度寝を始めた。

 ガムラオルスはベッドから出ると、床に落ちている下着をはき、適当に引っかけた服を椅子から取り上げた。


 しわを軽く伸ばしてから、部屋の隅に置いてある無骨な肩鎧を装備し、階段を降りる。

 一階では思った通り、多くの部下が酔い潰れており、それを一瞥するに留めて彼は店を後にした。


 翼を使い、速やかに王宮へと飛び、空を見上げる衛兵達に出迎えられる形で降り立った。

 城で彼を止めるものはなく、番兵などはすぐに道を開けていく。


 善大王がラグーンで戦っている間に、彼は多くの戦いをこなし、火の国での信頼を確かなものにしていた。

 そうして、謁見の間に到着すると、フレイア王……そして、ヴェルギンが待っていた。


「将軍、相変わらず活躍しているようだな」

「……ああ」


 若干冗談のような言い方だったが、ガムラオルスは特に気にすることもなく、話を続けようとした。


「さて、将軍に問うておきたいことがあって、今日は呼んだ」

「なんだ」

「……お前はこの国で成果を残し、今や英雄も同然だ」

「……」

「ふん、何か反応を示してほしいのだがな。では、単刀直入に聞こう……お前は今も、風の一族か?」


 問いの意味を考え、将軍は「一族と俺は、既に分かたれている」と断じた。


「ふむ……それは都合がいい。将軍よ、お前には風の大山脈を攻略してもらいたい」


 そこでようやく、彼は驚いたような顔を見せた。


「風の大山脈の……攻略?」

「そうだ。あの山は今……いや、今まで、どの国の支配下にも落ちていない。つまり、それを手に入れることができれば、我が国の国力は高まる」


 理由としては真っ当な返答だったが、かなりズレた答えでもあった。


「何故、この時期に」

「今は戦時中。他国の批判を許すまでもなく、あの山に攻め込むことができる」


 平時であれば、戦力を他国に出すという行為は危険である。

 事実、《カルトゥーチェの首輪》を盗み出したスタンレーが天の国に逃げ込んだ際も、水の国は天の国に対処を依頼したほどだ。


 だが、戦時中の今に限っては、それをすぐさま批判することはできない。

 雷の国と水の国が争ったという前例もあり、叱責を一身に受けずに済む、という理由もあるだろう。


「さて、どうする。受けるか、受けないか?」

「……王としての命令だろう? ならばそれに従うだけだ」


 驚きこそしたが、この返答に関して、彼は僅かにも迷わなかった。

 しかし、それを意外に思ったのがヴェルギンだった。


「ガムラオルス、本気で言っているのか?」

「師匠、俺はこの国の傭兵でしかない。王が命じるのであれば、その仕事を果たし、報酬をもらうだけだ」


 ヴェルギンは言い返そうとするが、フレイア王はそれを制し「ハッハッハ、面白い。それでこそ将軍だ」と手を打って喜んだ。


「兵はお前に預けている者達を使え。出発の時期が決まり次第、伝えろ」

「はっ」


 そう言い、ガムラオルスは謁見の間を後にした。ヴェルギンとは言葉を交わすこともなく。


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