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「将軍! やりましたね」
「……ああ」
戦いが終わると、戦士達は彼のもとに集まってくる。
ひどく冷淡で、他人にさほど関心を抱かない彼であっても、部隊に組み込まれた者達は皆一様に慕っているのだ。
しかし、それもそのはずである。仕事を楽二してくれる人、ということは傭兵としては素晴らしい人物だが、それ以上に彼は戦う者の心を引く性質をもっていた。
ガムラオルスは人智を越えた力を有しながら、それを驕ることもなく、ただ純粋に戦いへと身を投じているように見えるのだ。
そうしたおおよそ人間らしくない感性が非現実さを醸しだし、それに従いたいという心情を作り出していたのだ。
「戦いに終わりましたし、どっか呑みに生きましょうよ!」
「おっ、いいな」
「……仕方ない。誰か王に通しておけ」
部下達はその言葉を聞き、歓声をあげた。
詰まるところ、国に飲み代を押しつけようとしているのだ。支払われる報酬とは別に。
数十名の戦士達を引き連れ、ガムラオルスは凱旋した。
帰還した無愛想な将軍に、多くの民が喜びの声をあげた。
部下達もそうだが、民達の間でも彼の人気は高かった。
戦いの素人でも分かりやすく、彼の戦闘は派手で、そして絶対に負けるはずのない圧倒的強さは人の心を掴んでいた。
「わぁー将軍だ!」
近づいてきた子供を見下すように一瞥する。
無表情の彼に直視され、子供は緊張した。しかし、ガムラオルスは気怠そうに頭を掻くと、屈むことなく少年の頭を乱暴に撫でて歩みを進めた。
「将軍ありがとー!」
以前の彼が望んだような立場が、ここにはあった。
しかし、それは欲しいとすら思わなくなってから、手元に転がり込んできた。だからこそ、夢が成就した喜びはなく、感動もなかった。
ほどなくして、一行はメインストリートを離れた、場末の酒場に到着した。
そこに入ると、がらんとした店内が目に入る。
客は一杯の酒で長らく居座っているであろうみすぼらしい老人、悪い酔いした中年くらいしかいない。
「また王様に集るんですか?」
「ああ、安心して高いのから持ってこい」
声の主を確認することもなく、ガムラオルスはカウンターに座った。
「お前ら、好きにやれ」
「へい!」
大勢の男達が酒場になだれ込み、寂れた場末の酒場は一気に盛況となった。
とはいえ、ガムラオルスの隣に座る者は誰もいない。
「物好きですね。もっと高いところの方がいいんじゃないんですか?」店員は嫌みのように言い、隣の席に座った。
「これだけの大所帯だ。これくらい空いている場所の方が勝手がいい」
「ワタシが目当てじゃないんですか?」
「……まぁ、それもあるが。お前を雇っているんだ、これくらいはして然るべきだろう」
そう言い、彼は酒場のマスターと思わしき女主人を見やった。
「義理深いんですね、ガムラオルスさん」
「お前の酔狂の為だ」
店員は彼の目の前に置かれたコップに酒を注ぎ、笑みを向けた。
「お疲れ様」
「……ああ」
スケープにお酌をされたこともあり、コップに注がれたものを口に含む。
「結構きついな」
「やめときます?」
「いや、これでいい」
ある程度慣れてきたとはいえ、彼が口に含んだ酒はかなり度の強いものだった。
だが、それでも彼は平然と飲み進める。
「少し意地悪したつもりだったんですけどね」
「くだらないことをする」
言われてもなお、彼は怒るでもなく、出されたものを呑みきった。




