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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1125/1603

2f



「将軍! やりましたね」

「……ああ」


 戦いが終わると、戦士達は彼のもとに集まってくる。

 ひどく冷淡で、他人にさほど関心を抱かない彼であっても、部隊に組み込まれた者達は皆一様に慕っているのだ。


 しかし、それもそのはずである。仕事を楽二してくれる人、ということは傭兵としては素晴らしい人物だが、それ以上に彼は戦う者の心を引く性質をもっていた。

 ガムラオルスは人智を越えた力を有しながら、それを驕ることもなく、ただ純粋に戦いへと身を投じているように見えるのだ。


 そうしたおおよそ人間らしくない感性が非現実さを(かも)しだし、それに従いたいという心情を作り出していたのだ。


「戦いに終わりましたし、どっか呑みに生きましょうよ!」

「おっ、いいな」

「……仕方ない。誰か王に通しておけ」


 部下達はその言葉を聞き、歓声をあげた。

 詰まるところ、国に飲み代を押しつけようとしているのだ。支払われる報酬とは別に。


 数十名の戦士達を引き連れ、ガムラオルスは凱旋した。

 帰還した無愛想な将軍に、多くの民が喜びの声をあげた。

 部下達もそうだが、民達の間でも彼の人気は高かった。

 戦いの素人でも分かりやすく、彼の戦闘は派手で、そして絶対に負けるはずのない圧倒的強さは人の心を掴んでいた。


「わぁー将軍だ!」


 近づいてきた子供を見下すように一瞥する。

 無表情の彼に直視され、子供は緊張した。しかし、ガムラオルスは気怠そうに頭を掻くと、屈むことなく少年の頭を乱暴に撫でて歩みを進めた。


「将軍ありがとー!」


 以前の彼が望んだような立場が、ここにはあった。

 しかし、それは欲しいとすら思わなくなってから、手元に転がり込んできた。だからこそ、夢が成就した喜びはなく、感動もなかった。


 ほどなくして、一行(いっこう)はメインストリートを離れた、場末の酒場に到着した。

 そこに入ると、がらんとした店内が目に入る。

 客は一杯の酒で長らく居座っているであろうみすぼらしい老人、悪い酔いした中年くらいしかいない。


「また王様に(たか)るんですか?」

「ああ、安心して高いのから持ってこい」


 声の主を確認することもなく、ガムラオルスはカウンターに座った。


「お前ら、好きにやれ」

「へい!」


 大勢の男達が酒場になだれ込み、寂れた場末の酒場は一気に盛況となった。

 とはいえ、ガムラオルスの隣に座る者は誰もいない。


「物好きですね。もっと高いところの方がいいんじゃないんですか?」店員は嫌みのように言い、隣の席に座った。

「これだけの大所帯だ。これくらい()いている場所の方が勝手がいい」

「ワタシが目当てじゃないんですか?」

「……まぁ、それもあるが。お前を雇っているんだ、これくらいはして然るべきだろう」


 そう言い、彼は酒場のマスターと思わしき女主人を見やった。


「義理深いんですね、ガムラオルスさん」

「お前の酔狂の為だ」


 店員は彼の目の前に置かれたコップに酒を注ぎ、笑みを向けた。


「お疲れ様」

「……ああ」


 スケープにお酌をされたこともあり、コップに注がれたものを口に含む。


「結構きついな」

「やめときます?」

「いや、これでいい」


 ある程度慣れてきたとはいえ、彼が口に含んだ酒はかなり度の強いものだった。

 だが、それでも彼は平然と飲み進める。


「少し意地悪したつもりだったんですけどね」

「くだらないことをする」


 言われてもなお、彼は怒るでもなく、出されたものを呑みきった。


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