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定期船と比べるとずいぶん小さく、八名ほどが入れるという広さである。
ただ、内装はずいぶんとしっかりしており、ソファーやテーブルまで配置されていた。
「こんな宝具もあるんだな」
「すごいでしょう! いやぁ、こんな船はそうそうありませんよ!」
「別にあんたのもんじゃないだろうに……ってか、こんな旅にまで付き合うなんて、本当に腐れ縁だねぇ」
チャックは既に操舵席――妙な画面が幾つか付いている――におり、どっしりと椅子に座りこんでいた。
「旦那に頼まれたからにはやらないわけにゃいきませんよって。それに、ぼくじゃなきゃこんなじゃじゃ馬は操れないってことですよ。船出したら代わりにやってみます? いやいや、危ないからやめときましょ」
相も変わらず、舌が止まると死んでしまうのではないか、という速度で話していた。
善大王は特に気にするでもなく、フィアの隣に座ると「早めに出てくれ」と言った。
「ヘイヨ! じゃあ出発しますんで――おっと、思ったより速いんで気をつけてくださいよって」
ゆっくりと旋回し、出発体勢が整った。
船は次第に加速しながら大陸を離れていく。
そんな時、陸で見送るラグーン王が深々と頭を下げている姿が見えた。
善大王はしばらくそれを見た後、大陸方面から目を離した。
「んなことしなくても分かってるっての」
「えっ、なに?」フィアが言った。
「なんでもない……それはそうと、この集まりはなんだ?」
出発して、ようやくその話題が出た。
しかし、アカリは目を閉じ、腕を組んで黙ったまま。
彼女の隣に座るヒルトも同様であるが、彼女は仕事人ほど露骨ではなく、目のやり場に困っていた。
「……うーむ」
「まぁ、あれですわ。沈みかけの泥船から逃げるってのがこのツアーの目的だったってことで。でもまぁ、無事に闇の国を追い返しちゃったもんで、なかなかどうして不自然な船出になっちゃった、ってことですわ」
「ほぉ、なるほど。つまり、仕事人はこの船を使ってさっさと逃げようとしたワケか」
「……別に雷の国の人間ってワケでもないしねぇ」
「いや、別に文句を言おうってわけじゃない。ただの嫌みだ」
「ハッ」
どこか陰険な雰囲気が漂い、フィアやヒルトといった年少組は気まずそうにした。
「にしても、そこの剣と銃……あんたのかい?」アカリはチャックに言う。
「えーはいはい。もちろん、ぼくのですよ。ヒルトちゃんに何かがあった時はぼくが守りますんで、そこのところよろしくおねがいしゃーっす」
「もっとマシな護衛だと思ったんだがねぇ。まぁ、これを操縦できるのがあんただけっていうなら、仕方ないけど」
そこで会話が途切れた。
重苦しい空気が船内を圧迫するかに思われたが、虚空を見つめていたフィアが、そしてヒルトがそれに気付いた。
「なんか、すごい速いね」
「……ん?」
外を見た瞬間、その異常さに気付いた。
「おいおい、これ速いなんてもんじゃないぞ。港があんなに小さくって……」
「あーはい、定期船の九倍近くは速度出てると思いますよー」
「これが宝具か……いや、本当に驚きだ」
「最高速にすればもう少し速くになりますよ」
「まだ速くなるのか!?」
思ったより早く光の国につきそうだと思い、善大王の機嫌はとても良くなった。
さすがに遅れを取り戻すほどではないものの、戦いの甲斐はあったと判断できるものだった。