24x
「……とまぁ、あんな対応だったわけで」
「……」
「さて、どうしたものですかね」
フランクが三人に合流したが、事態は最悪そのものだった。
手負いとはいえ、未だ健在のライカ。そして、生き残りを多く有する闇の国。
勝負は決したか、と思われた時――戦況は大きく動いた。
「ぐ……ぐぁ……ぐがぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
凄まじい叫び声をあげたのは、ライカだった。
彼女の体は激しく痙攣し、翼は乱雑に空を薙ぎ払う。
「……これはどういうことだい?」
「分かりません。あの術があんなことになるとは……私も初めて見ました」
困惑するのは雷の国側に限らず――というより、ライムは誰よりもこの変化に驚きを覚えていた。
「撤退、ですわね」
「は? あと少しで敵を葬れるというときに、何を――」
「ライカちゃんの体が限界みたいですわね。わたくしが独自に改造をしてみましたが、やはり畑違いは口出しするものではありませんわ」
「……そうであっても、ここは雷の国を滅ぼすことを優先するべきです」ヘレンは強く反論した。
「わたくし達の目的は、兵器をもって成果を出すこと、ですわ。活躍した兵器が破損したとなれば、成果は期待に繋がりませんの」
継続的な活躍ができる兵器の登場は、民に大きな喜びをもたらすだろう。
だが、それが一発限りのものであったなら、失望が勝る。国民を強く陶酔させる為には、回天の兵器を保有している、という事実が重要なのだ。
無論、それはヘレンも理解していた。理解はしていたが、この絶好の機会を逃すものではない、と考えている。
しかし、ライムは迷うことなくライカに何かの命令を送り、中途半端に残っていた天使の構成部位を消滅させた。
ゆっくりと地に落ちていく彼女を部下に回収させると、ライムはさっさと背を向けてしまう。
「さ、撤退しますわ」
「……はい」
あと少しで、という考えは頭から消えることもなく、それでも彼女は巫女の言うことを聞くしかなかった。
「では、わたくし達は失礼しますわ。追ってくる、というのであれば止めはしませんが」
「いやはや、こちらとしては望むところだよ。懸命な判断に感謝を」
連れて行かれるライカを見て、三人の男は追おうとしたが、アカリはそれを制する。
「向こうが退いてくれるっていうなら、それに乗ろうじゃないかい」
「姫様を見捨てられるわけがないだろ」
フランクはバルザックに同調するように頷き、王の顔を窺った。
「私個人としても、国家としても、ライカを助けることが全てを変えるきっかけになります」
「ま、そうだろうねぇ。ただ、そりゃビリビリ姫が真っ当に動けばのこと。今助けたところでお荷物が増えるだけさ――少なくとも、それを許すほど連中は弱くないよ」
真剣な表情でそう言う仕事人に、隊長はやはり食ってかかろうとした。
だが、ラグーン王が先んじる。
「あなたは仕事を果たしました。ここで別れてもらっても構いませんよ」
「……そ、なら失礼するよ」
逡巡すらなく、アカリは背を向けてアルバハラの屋敷を目指して歩き出そうとした。
「ただ、もったいないものだねぇ。連中が撤退するってことは、勝ち抜けってことさ――勝ちが決まった状態で死にたがるなんてねぇ」
「なんだと!」
「ここで王様が死んだら、相手は逆転勝利さ。民は容赦なく殺されることになるわけだ。まぁ、あたしゃ逃げる算段があるから関係はないがね」
説得のようにも聞こえるが、彼女は去りながらにその言葉を紡いでいる。本当に、どちらでも構わないのだろう。
「……深追いは避けるべきです、王よ」
急に意見を変えたフランクをバルザックは睨み付けたが、ラグーン王はしばらく考えてから拳を収めた。
「首都に戻りましょう。間に合うかは分かりませんが、善大王様の支援を」
「王! それでいいんですか!?」
「彼女の言い分は一理あります。この戦いは我々の勝利――ここで命を散らせば、この戦いに携わった人達の努力が無駄になります」
言いながら、王は身を震わせ、顔を顰めていた。