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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1111/1603

19E

 アカリは《魔導式》を展開し、最大出力の術を叩き込もうとしていた。

 もとより、無限のソウルを有する彼女が編み出す術は強力なのだが、今に関してはその比ではない。


 今間の仕事人が用いていたのは、所謂規模の拡大であり、袋に沢山の石を詰め込むようなものだった。

 だが、能力と器崩しの相乗によって強化された場合、袋に詰め込むものは石ではなく、宝石や金貨に等しい。


 エネルギーの質、というのは量などでは(おぎな)い切れない。

 その証拠というべきか、巫女の使う術は人間には真似できない代物だ。ただ、アカリの術は明らかにその領域に迫っている。


 もし発動が成立したのならば、眼前の天使を(ほふ)る可能性は十分にあった。


 だが、驚きは彼女に限ったものではない。

 前線でライカの猛攻を一身に受けているフランクもまた、規格外な実力だった。


 彼は自身の火力が乏しいことを理解し、その上で無茶な近接戦を行っている。

 もし銃器での攻撃を行い、距離を取っていたのであれば、攻撃の矛先は間違いなく仕事人に向かっていたことだろう。

 とはいえ、彼にはアカリの脅威度を上回る打点を叩き出すことはない――故に、優先的に仕留めることができる、と判断させる射程に踏み込んでいるのだ。


 いくら脅威になり得ない存在とはいえ、早期に撃破できる対象ということならば、優先度は大幅に向上する。


 上空から振りかざされる翼に警戒しながらも、手持ちの長筒の銃を放っていく。

 攻撃動作は軽快ではなく、一発一発毎に装填動作と発射態勢を取る必要があるのだ。

 その上で、確実に攻撃を見切り、広範囲の鉄槌を回避していく。


 とても割のいい策のようにも見えるが、彼の回避行動が確実に成功するわけではない、というところが肝だった。

 ただ一度の失敗はつまり、死に繋がってくる。掠りでさえ、即時戦闘不能に陥るほどだろう。


「巫女様、あの男――消しますか」ヘレンは口を出した。

「面白い見世物ではありませんこと? 絶対死なない人間が絶対死ぬ術を使い、その上で生き残って強化された――そんな人間離れした方と、天使を使役する巫女の戦い。これを見逃す手はありませんわ」

「ですが……それならば、あの男は」

「前座ですわ。あの銀色の戦士が時間を稼がなければ、ライカちゃんによって、この勝負は一瞬で決着がついてしまいますの」


 飽くまでも勝利より愉悦を優先する巫女に、ヘレンは嫌悪感を覚えていた。


「……それに」

「はい」

「あの戦士が生き残れる、とも限りませんわ」


 その言葉を発した時、ライムの顔つきは明らかに変わっていた。

 全てを(わら)うような、妖しい笑みを湛えたものではなく――そう、たとえるならば、刑の執行を見守るような厳粛さだ。


 そして程なく、彼女の言葉は現実のものとなった。

 発砲を終え、その場から離脱しようとしたフランクの直上から、それまでとは比較にならないほどの速度で翼が降ってきた。


 速さは布がゆらゆらと舞いながら落ちる速度に等しいが、なにせ規模が大きすぎる。

 既に走り出していたフランクだが、その疾走では紫が地に達するより前に逃れれることはできない。


 次第に、というレベルで機動力が向上していたことを彼は認知していたが、その伸び率が急激に増すとは考えていなかった。

 表情も窺えないヘルムのまま、彼は走り続けた。諦めていないのか、諦めた上でやっているのか、その判断は付かない。


 紫色をした一本の大河が、地を流れた。


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