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「さて、これで少しは勝負できるかね」
戯言を、と思ったヘレンだったが、急激に上昇した魔力に驚愕した。
「これでは止まりませんわ。あの方は、《器崩し》も使っていますの」
「器……崩し?」
「ソウルの籠である肉体を崩壊させ、内部の力を外部へと開放する術ですわ。現状、これを実用的に用いる手段はありませんの」
「外部に力を放出するのであれば、事前に配置した《魔導式》を起動させるくらいしか……ありませんからね」
「そうですわ。でも、それでは割が合いませんの――ですが、あの方は例外ですの」
爆発的に上昇した魔力は、この器崩しによって発生したもの。
そして、彼女自身の能力はまだ完全に起動していない。
第二波と言わんばかりに、莫大な魔力がさらに一段階上昇した。
「これが……一人の人間が放つ魔力!?」
「これは予想以上ですわぁ。一個体がここまで莫大な力を保有できるなんて」
アカリの放つ魔力の量は、それこそ召喚された天使に匹敵するほどだった。
純粋な《星》のそれさえ優に上回り、天使と比べても劣ることのない量。おおよそ人間に収まりきらない規模である。
「敵に塩をやっちまったねぇ」
「……いえいえ、これは面白い催しですわ。あなたの能力が切れるのが先か、ライカちゃんが負けるのが先か……さぁ、わたくしを楽しませてくださいまし」
異様に高揚しながらも、ペースを崩そうとしないライムを不気味に思いながらも、アカリは人間とは思えない跳躍力によって天使に迫る。
「本当はこういうこと――したくないんだけどねッ!」
プリズム光を思わせる力を纏いながら、彼女の蹴りが天使の翼に命中した。
それ自体が馬鹿げた破壊力を持つ翼に触れながらも、彼女の足は僅かにも傷つかず、力の拮抗が発生する。
「素晴らしいですわ! 天使の力にさえ触れられるなんて!」
感嘆の声など耳に入れず、仕事人は第二撃目の蹴りを放つ。
一発、二発を打ち込むが、翼が僅かに後退する程度で明確なダメージは与えられなかった。
「(やっぱり、正攻法じゃ通用しない、ってことだねぇ)」
三発目の蹴りによって、アカリは自ら戦闘領域から離脱し、核の役割を果たすライカを見た。
「(こっちの最高火力でビリビリ姫を打ち抜けば……勝てるかもしれない)」
だが、そこには大きな問題が存在していた。
地面に着地すると、着地点を予測していたフランクが近くで待機していた。
「おぉ、ちょうどいいところに。ちょっと頼みがあるんだけど、いいかい?」
「了解した」
「まだ言ってもいないんだがねぇ」
「時間稼ぎ、だろう」
「察しのいいことで」
そう言うと、銀の人はその場から離れようとした。
「ちょい待ち。この作戦、一つだけ大きな問題があるんだけど」
「……」
「あたしの最高火力を叩き込めば、ビリビリ姫を仕留める自身はあるよ。でも」
「……」
「そこに到達する前に、力が切れるかもしれないってこよ。そうなったら、ごめんってことで」
フランクは呆れたような反応を見せたが、すぐに頷き、戦場に向かって走って行った。
「姫様が死んじゃうかも知れない、ってことを心配さえしないってのはドライだねぇ」
そう言いながらも、彼女自身さえそれを気にしていなかった。
生き残る為に、手心を加えている余裕はないのだ。