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想像を絶する存在の出現に、三人は絶句した。
「……《秘術》」
いままで幻術にかかっていたと気付いたアカリだが、目の前に広がる光景が幻などではないことは、肉体に響く威圧感によって理解していた。
「いいえ、これは《星の秘術》ですわ。わたくし達《星》にのみ許された、法則を超越する秘術」
紫色をした力の塊の異常性を、仕事人は強く感じていた。
術に精通していないものであれば、不可思議な《秘術》と大差ないように判断するかもしれないが、本質は大きく異なっていた。
力の塊は導力のように見えるが、放たれる魔力の量が規定量を遙かに上回っている。
それは沸騰すらしていない水が、溶岩の如き熱量を放つような異様さであった。
なにより、アカリの探知能力を持ってしても、その力が何の力なのかが理解できなかったのだ。
三人が唖然としていると、光輪から一対の巨大な翼が生み出され、瞬く間に工場を真っ二つに切り裂いた。
凄まじい爆風が周囲を襲い、アカリとバルザックは空中に投げ出された。
「(これが巫女の本領、ってわけかい……本当に馬鹿げた力だよ)」
既に彼女一人が――いや、この場の三人がどうにかできる問題ではなくなっていた。
ただの一発で大規模建造物を破壊する威力、範囲を有する存在など、対処できるはずがない。
魔物ならば撃破する目途も立つのだが、ライカの場合は周囲のマナを取り込み、無限に回復し続けるのだ。
先の戦いで圧倒的回復能力を目にしていたアカリは完全に諦めきり、どうやって逃げるか――生き残るかを考え始めた。
「(向こうで戦ってるちびっ子が助けに来れば――癪だけど、あの男がこないとどうしようもないねぇ)」
同じく巫女であるフィアが来れば、この状況をひっくり返せるかもしれない、と思うほどに絶望的だった。
他人に頼るなど――それも、嫌う善大王にさえ縋るほど、召喚された天使は脅威だった。
「……いや、まだ手はある」
叩きつけられてしまえば、ただでは済まない高度に到達していた。
だからこそ、仕事人はそれに賭けるしかなかった。
彼女の周囲を《魔導式》が巡り、術の形式とは異なった形に整列されていく。
「こういう土壇場の賭け、なんてのはしたくないんだけどねぇ!」
降下していき、地面に叩きつけられようとした瞬間、彼女は叫んだ。
「《器崩し》ッ!!」
彼女の体は激しく発光し、地面に到達した瞬間――柔らかい果実のように汁を撒き散らしながら潰れた。
「愚かな」
「……ふふっ、これは面白いことになりましたわ」
ライムの言葉を怪訝に思ったらしく、ヘレンは眉を顰めた。
「あのような自害が、楽しい……?」
「ええ」
彼女が妖しい笑みを浮かべた瞬間、血の池から這い出すようにアカリが現れた。
「なっ……」
「《不死の仕事人》の名に偽りなし、ですわね」
仕事人はびしょ濡れになった犬のように、首を振って血を払う。すると、辺りに散らばった肉片や血は消滅していき、彼女を汚していた赤も消えていった。