15E
「(敵対するのであれば討つ……姫様であっても)」
フランクは表情の窺えないヘルム越しに、ライカの顔を見た。
ただ、言葉とは反するように、彼は迷いを滲ませている。もちろん、それで遅れを取るようなことはないが、確かに存在していた。
傷を負ったライカだが、程なくして傷は修復し、攻撃を再開した。
最大火力を叩き出したからか、優先度はアカリへと戻り、銀の人に背を向ける。
「行かせない……仕事人のもとには」
右手だけで拳銃をホルスターに戻し、空いた左手を用いて逆手になるように長剣を抜いた。
当然、それだけでは攻撃対象は変わらない。フランクは素早く右手に持ち替え、飛びかかるようにして攻撃を仕掛けた。
この攻撃は危険性アリと判断したらしく、雷獣は振り返ることもなくマフラーで迎撃に移る。
剣での防御はできず、ジャンプ中である為に回避行動も取れない。
しかし、フランクは身を捩らせ、紫電の尾と掠るようにして直撃を防いだ。
針の如く電撃が肉体に襲いかかるが、それでも攻撃を中断することなく、刺突を叩き込む。
肩に刃が突き刺さり、ライカの動きは止まった。
彼には見えていないが、その顔は苦悶に滲み、獣のもののようではあるが呻きをあげる。
だが、止まらない。彼は蹴りつけるようにして剣を抜き放つと、そのまま斬撃のフォームに切り替えた。
「フランク! 攻撃を中止しろ!」
隊長であるバルザックの命令だったが、彼は攻撃を続行した。
彼は警備軍――それも警備隊時代からの所属ではあるが、実際的にはラグーン王の部下でしかない。
王の下した命令は、闇の国の侵略を防ぐこと。そして、破壊の拡大を防ぐこと――それに反する命令は、隊長のものだとしても関係はなかった。
「……ここまで、ですわね」
耳許で聞こえた声に気付き、フランクは飛び退き、声のした方向に向かって攻撃を放った。
「迷いがない……あなたは本当に、生粋の臣下ですのね――ラグーン王の」
何かに気付いたような反応を見せたが、やはり彼は剣を止めたりはしない。そのまま、ライムの命を奪い去ろうとした。
だが、彼女はゆるりと動くと、余裕をもって斬撃を回避してみせた。
多少、雑念が混じったとはいえ、その速度や鋭さは全く減退していない。その上で、ライムは避けきったのだ。
「ライカちゃんがここで殺されることはあり得ない……ですが、このままやっても堂々巡りですわね」
「……」
「それはそれで、悪くはありませんのよ? ただ、あなた方がこうして、この場に来たからには……長引かせるのは得策ではありませんわ」
彼女は気付いていた。フランク、バルザックが別の場所で戦った後、ここに来たと。
アカリが時間稼ぎを選んだ時点で、薄々と勘づいてはいたが、こうして現れてみれば確信に変わる。
事前に放っていた兵站破壊部隊の多くが打ち破られ、次々と増援が訪れると。
フランクは攻撃を外し、明確な驚きを見せていたが、驚異的な立ち直りの速さで再度攻撃を行った。
「敵を捉えた後も戦い続けますのね。それが無駄だと、あなたなら気付きそうなものですが」
ライムは首を傾け、鋭い刺突を避けた――はずだったが、刃は彼女の頬を掠っている。
ただ、それはフランクが意図して当てたというより、彼女が当たりにいったように見えた。事実、彼は予期せぬ命中に困惑している。
「多少のリスクがなければ、人の特別は奪えませんの。それが雷の巫女のものであれば、なおのこと」
血液の雫が垂れた瞬間、それは地面に辿りつくこともなく、消え去った。
途端、馬鹿げた量の魔力が周囲に散布され、息苦しさを覚えるほどの圧迫感が満ちた。
だが、変化が起きたのは彼女の身ではなかった。そして、その力の根源もまた、別の場所にあった。
「あっ……あぁぁ……あああああああああああああああああああああああああ!」
叫びをあげたのは、ライカだった。それまでの獣の吠え声とは違い、その声は確かに彼女のものだった。
攻撃性を有していた紫電は攻撃対象もなく、乱雑に撒き散らされ――恰も、《魔導式》のような形を取っていく。