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不意の攻撃だったが、雷獣の尾は一発の銃弾を叩き、蒸発させた。
それだけに留まらず、発射地点に向かって四足で駆け出す。
雷獣が離れてすぐ、アカリは地面に叩きつけらっれ、嘔吐するようにうめき声を吐いた。
「ぐぇえっ……どーにも、間に合ったみたいだね」
地面に臥したまま、ようやく服についた火を手で払うと、発射地点を睨んだ。
そこには、銀色の男が立っていた。
「っ……おっせーよ、カオナシの兄さん」
「だけじゃない」
抱き起こされるようにして、仕事人は自分の足で地に立った。
「あんたは……誰だい?」
「こんな顔だ、分からないことに文句はいわない――警備軍の、バルザックだ」
「あぁ……うん、ここに来たってことはそれなりに使える男ってことね」
軍に属していたわけではないからか、アカリは突出した実力者であるカオナシ――つまり、フランクのことしか認知していなかった。
鏡面のヘルムを被った男は、ばつのわるそうな反応を見せたが、すぐに長筒の銃を構えた。
「相手の力量は?」狙いを定めながら言う。
「こうなってる時点で分かるだろう? かなりの曲者さ」
かなり弱っているはずだが、仕事人は着々と《魔導式》の展開を進めていた。
「姿は……見えないな」
「女の子、だねぇ」
「……女の子?」
激しい紫電が撒き散らされ、姿を目視できていない警備軍の長は困惑した。
「あの電撃……姫様のものと似ている」
「そうだねぇ。鋭さも遜色ないねぇ」
「なんだ、今まで戦っていたんじゃないのか? どうしてそうも他人事のように――」
「はいはい、お喋りはこれくらいにして……さっさと戦うとするよ。いつまでもカオナシの兄さんに任せているわけにも行かないしねぇ」
はぐらかすようにし、アカリは《魔導式》を起動した。
「《火ノ百十番・炎連弾》」
生成された複数の炎球は、単体でも中級術の上位に当たるサイズを誇り、それが次々と紫電に向かって放たれていく。
近接戦に移行していたフランクはこれを回避しつつ、距離を取って剣から銃に持ち替えた。
雷獣は尾でこれらを払いながら、しかし取りこぼした攻撃には直撃していく。
攻撃の速度が上昇したこともあり、明確な隙が生じた。
バルザックはこれを見逃さず、遠距離ながらも一個の的目掛けて発砲した。
その一弾は正確に頭部へと炸裂し、貫通する。
「ひゅーっ! なかなかにいい武器を持ってるようで」
「指揮官の狙撃用だが、魔物にダメージを与えられる程度の火力は存在している」
彼は雑談のようなアカリの言葉を聞き流し、次弾を撃ち出そうとした。
「……あの顔」
「んあ?」
スコープを通し、バルザックは雷獣の姿を正しく捉えた。
仮面は破壊され、頭部も赤く染まっている――が、その顔、髪の色で間違えるはずがなかった。
「姫……様?」
仕事人は手で顔を覆い、「あちゃー」と冗談のような声をこぼした。
「……知っていたのか?」
「確信はなかったよ。まぁ、あんなことをできるって時点でそうだろうとは思ってたけど」
「……それで、その上で戦ったのか?」
「ああ、それが仕事だからねぇ」
スコープから目を離すと、隊長はアカリを睨み付けた。
「やはり、よそ者か」
「生きようとするのは当然の義務さ。それに、カオナシの兄さんもそれは弁えているみたいだしねぇ」
「なんだと!?」
「アレがビリビリ姫だって分かってなきゃ、戦いは成立してないもんよ。あたしが戦いだした頃ならともかく、戦いの癖が戻ってからはね」
彼女の読み通り、フランクは雷獣がライカだと分かった上で戦っていた。
手心を加えた上で制圧できる、などとは思いもせず、生きる為に迷うことなく戦っていた。
彼の有用さはその実力だけではなく、こうした判断を下せるところにもあった。
おおよそ、雷の国らしくもない人間だった。