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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
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「(っても、これで状況が打開したわけでもないしね。さてと……)」


 彼女の逡巡を待てないと言わんばかりに、雷獣は速度を増しながら突撃を行ってきた。

 最初とは違い、この直線攻撃は恐怖に満ちている。


「(向こうは咄嗟に切り返せるってのに、こっちはあの突進を真正面から止めるのは難しい……ってより、無理だね)」


 軌道の読みやすさが消え去った以上、アカリは力をもって相手取る必要があった。

 しかし、この突進は彼女の見込み通り、防ごうとしてどうにかできるものではないだろう。


 攻撃を受ける危険を負い、回避行動を取るべきか。

 避けるのは無理と割り切り、相手の打撃力を僅かにでも軽減すべきか。


「どうすべきか、なんて贅沢な願いさね――んなもん、生き残る方が優先さ!」


 復帰直後から展開を行っていた《魔導式》を起動し、仕事人は自分の直下に向かって放った。


 雷獣はほんの僅か、瞬きをするような時間だけ走りを緩やかなものにしたが、突撃を止めることはしない。


「そう、それで正解さ! だけど、あたしに得をくれてやっちまったみたいだねぇ」


 術が発動し、アカリは空中に吹っ飛ばされた。無論、彼女は防御の(すべ)など用意してはおらず、自身の強力な――除外文による軽減のない術に直撃した。 


 服が本格的に発火するが、それを叩いて消すこともなく、彼女は下方に広がる光景を瞬時に捉える。


「攻撃対象を失い、直進……はは、予想通りだねぇ」


 あの一着、ただの自爆のように見えたが、高度な思考を巡らせた回避行動であった。


「偶然の回避……ですね」

「まさか、自分から吹っ飛ばされたんですわ」


 ヘレンは驚き「あの場であれば、術で牽制し、避ける時間を稼ぐべきでした」と術者としての反論をした。


「それは論外ですわね。やるなら、避けきるという自信を持って躱すか、最大火力で攻撃し、受け身を取るべきですわ」


 やつれた女性の考えは間違いではなかった。ただ、この状況においては不適切である。

 雷獣の機動力、火力を考慮するのであれば、中途半端な行動は死の確率を高めるだけ。どちらかに特化し、生存の確率を僅かにでも高めることこそが、この場での正解だった。


「しかし……それを行うにしても、術の威力を抑えるべきでは? あれを見る限り、威力は彼女の最大と思われます」

「ええ、ですから素晴らしいんですの。やはり、実戦仕込みの判断は鋭いものですわね」


 そう、仕事人はライムの二論を押さえた上で、第三の選択を取った。それが、自爆による軌道からの離脱である。


「あの場で最高火力に高めたものを発動したことで、雷獣の判断を遅らせましたわ。もし怪我を恐れて出力を押さえていれば、取るに足らない攻撃と判断して接触が早まっていたことでしょう……なにせ、発動したのは所詮、ただの下級術ですもの」


 机上の理論、座学的知識では理解のできない領域だった。

 アカリは王道と言われる戦いとは正反対の、ダーティな戦場を生き抜いてきた。

 だからこそ、単純な術の強度でも、体技の素晴らしさでもなく、盤外戦術のような心理戦に特化したのだ。


「――ただ、悪あがきですわね。空中に逃れたところで、ただの時間稼ぎにしかなりませんの」


 ライムの言うとおり、雷獣は仕事人の真下にまで移動しており、落下しつつある彼女を打ち落とそうとしていた。


「引き延ばすところまでは引き延ばしたけど……ここまで、かね」


 視界に映る風景は、紫電迸らせた一対の尾に支配されていた。

 諦めるように目を閉じた瞬間、銃声が轟いた。


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