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完全に読みが外れた――というより、明確な判断能力をもってして、相手の回避方向を先読みした。
何度も同じ方法で避けられていれば当然の対応、とも考えてしまうが、そうではない。少なくとも、初期の段階ではただ暴れるだけであり、対応するような行動はみられなかった。
逃げようにも、既に回避行動に移っている以上、この攻撃を甘んじて受けるしかなかった。
外力によって運動能力を獲得するガムラオルスでもなければ、こうした状況に追い込まれた時点でおしまいなのだ。
尾のような、腕のようなマフラーは紫に帯電しながら、仕事人の腕を掴んだ。
「っぁ……がぁああああああああああ」
全身に激しい電流が流れ、意識が、視界が、凄まじい速度で明滅を繰り返した。
体は激しく痙攣し、逃れる方法を考えることさえできなくなる。
次の瞬間、彼女の体は発火した。
「発火……電気で火がついた、なんてことはありませんわね」
ライムは僅かにも惑わされなかった。その火は明瞭な赤色を湛え、マフラーに伝い始めていたのだ。
雷獣は火を振り払うように、アカリを投げ飛ばす。
宙を舞う仕事人は脱力しきっていたが、着地の寸前には受け身を取り、ダメージを最小限に抑えた。
異常な緊張状態から解き放たれ、筋肉は弛緩していく。
「(ちょっと気が緩んだら漏らしてたね、こりゃ)」
死にかけた状態ながらも、彼女は失禁を防げたことに安堵していた。
ただ、それは楽天家な発想ということでもなく、そうなった場合は明確な隙を作ることになったという意味を持っている。
いくら戦闘のプロフェッショナルであっても、体が緩みきった状態では思うようには動けないのだ。そもそも、失禁をしようものなら、不快感によって動きが鈍る。
体に残る痺れから意識を離し、体の駆動をゆっくりと確認していく。
「(ちょっと違和感はあるけど――体のどっかがイっちゃったってことはないみたいだね)」
強烈な電撃で体が思うように動かなくなる、という状況も彼女は想定していた。想定してはいたが、そうなっていた場合は、対策の打ちようもなく殺されるだけだった。
「今の判断、なかなかのものでしたわ」
「お褒めの言葉と受け取っておくよ」
「ええ、皮肉ではなく本当に誉めていますのよ? あそこで自身を発火させなければ、麻痺の状態から復帰できずに……ぐしゃっ、といってたことでしょうし」
そう、あの時の発火は雷獣を払う為の手――というだけではなかった。
導力を用いた発火は相当に困難であり、衣服を触媒にする必要がある。
ただ、それならば全身に火を巡らせる必要はなかった。
それでも彼女が危険を犯したのは、電撃を減退する為だ。
マフラーを覆う電撃は出力を増し、高密度になった雷属性の導力である。故に、別属性の導力によって働きを阻害し、感電の具合を弱めることは可能だ。
もしも火属性の導力を抵抗にしていなければ、投げ飛ばされた時点で受け身も取れず、どこかしらの骨を折っていたことだろう。
万が一、そこまで大きな怪我にならなかったとして、戦闘続行に大きな障害を残していたことは確かである。
意識が滅茶苦茶になりながらも、仕事人は咄嗟に最適解を選んだ――いや、無意識的に、習慣的に実行したのだ。