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翌日、アカリは早速暗部の預かりとなった。
第一回目の邂逅は城下町の一角にある、小さな小屋で行われた。暗部が用意している偽装施設のひとつだ。
椅子と机が置かれているだけのような、簡素な部屋の中で待っていたのは、いつか善大王を助けた深緑色の髪の男だった。
「シナヴァリア、この娘を任せる」
「ハッ」
「実戦で運用できる程度に育てておいてくれ、なるべく早めに。当面はこの娘の全責任は君が負うことになるが、構わないな」
「分かりました」
それだけ言うと、ノーブルは去っていった。
なにをしていいのか分からなくなり、アカリは黙って椅子に座った。
「勝手に座るな」
威圧的に言われ、反射的に立ち上がった。
「名前は?」
「アカリ」
「……私はシナヴァリアだ。知っての通り、暗部に所属している」
咎めるような目をし、叱りつけるような声をしている。アカリは、すぐに苦手意識を抱いた。
「人と話す時は、目を見ろ」
注意され、すぐに直す。
そこでアカリは、シナヴァリアを改めて見ることになった。
目つきは初見の時と変わらず、鋭いまま。
体つきも引き締まっており、いかにも戦士といった風格をまとっている。
しかし、そんな外見とは裏腹に、男性としては長すぎる長髪がアカリの目に入る。
任務の邪魔にならないようにか、緑色の紐で結われていた。
アカリは初対面の印象で、結構年上の存在だと認知した。少なくとも、二十代中盤くらいだと。
「暗部の仕事については聞いているか」
「大体は」
「ならば話は早い。すぐにでも修行を始める。私には仕事がある為に付きっきりにはなれない、だからこそ課題をつけていく」
「分かった」
「敬語を使え」
「……分かりました」
やはり苦手だ、とアカリは思った。
その日の夜、アカリは善大王の自室を訪ねた。本来であれば監視の誰かに見つかった時点で終わりだが、彼女に関しては例外とされている。
「善大王様、暗部に所属しました」
子供のように、アカリは善大王に今日の出来事を話していた。
「うん、ノーブルから聞いているよ。でも、大丈夫かい?」
「はい、善大王様の為に頑張ります」
善大王は優しいだけではない、気遣いもできる。
だからこそ、この場ではアカリが自らの意志で危険な仕事を選んだことに対して叱りつけるのではなく、自分に忠義を誓ってくれたことに喜んで見せた。
「これから国に頑張ってほしい。頼りにしているよ」
恩人に頼られ、アカリはいい気分になっていた。昼に嫌な気持ちになったことなど、忘れてしまうほどに。




