表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1095/1603

3

 ――雷の国、ラグーン城にて……。


「なに!? ニカドに奇襲だと?」

「はい。あちらに駐在している部隊からの報告、間違いはないかと」


 あまりに不可解な報告に、善大王は頭を抱えた。


「死に損ないの部隊が起死回生の一手に賭けた? まさか、そんなことはないよな」

「いえ……襲撃してきたのは軍勢(・・)です。おそらく、首都以外を襲ってから英気を養おうとしている……というところですかね」

「よりにもよってあんな場所を攻撃するかよ」


 軍勢の出現、という単語から想起するのは、幻術を用いた騙しという線。

 しかし、そこまでの規模の幻術を使える者がいるとは思えなかった。なにより、疲弊しきった兵がいくら束になろうとも、精度の乏しくなった幻では騙しきれない。


「対策部隊を出すべき……でしょうか」

「ラグーン王はどう思う」

「私ならば、間に合う限りの兵を動員し、犠牲を減らします」

「……ならそれが正解だ」


 ラグーン王は驚いたような顔を見せたが、すぐに頷き、部屋を出て行った。


「ねぇライト、本当に良かったの?」


 黙って二人の会話を聞いていたフィアは、王が立ち去ってからようやく口を出した。


「正直、俺も状況が見えないんだ。今までの想定では、フィアの意見を汲んでも二人の司令しか見えなかった。そこに来て、三番目の人間の影がちらついてきた」

「ここまで動かなかったのはおかしい、ってこと?」

「……ああ。この規模の幻術を使えるとなれば、相手は向こうの術者隊だろう。こんな終盤まで取っておく、というのがまず分からない」

「前から動いていたって可能性はないの?」


 長らく戦況を見てきたからか、フィアの判断は非常に冴えていた。


「なくもない……どころか、多分そうだろうな。古く遡ればアルバハラを襲った連中、そこに術者隊から何名かが回されていた可能性はある。それ以降にしてもそうだ。大したことのない戦力に、優秀な幻術使いが混じっていた」


 優秀、と評価しているが、術者を含めた二軍部隊はほとんど打ち破られている。

 ただ、この小競り合いを起こしていた部隊に共通していたのは、善大王と同じく陣取りを目的としていたということ。

 つまりは、術者隊の指揮官は彼に近い思考を持っている、となる。


 だが、今回は違う。戦略的判断をするのであれば、ここは降伏、もしくは撤退以外にはあり得なかった。

 主力部隊と合流し、思想が混じり合った――という可能性もなかった。

 戦術、戦略のどちらの目にしても、ニカドは決して割の良い場所とは言えない。


「首都に極めて近い場所を攻めるなら分かる。だが、ニカドは攻勢に出るにしても、一時拠点にするにしても中途半端な位置だ。警備軍の本隊がすぐに向かえる上、相手はある程度の消耗を覚悟しなければ、首都に攻め込めない」

「いまさらじっくり攻めていく、なんて考えるとは思えないしね」


 善大王は思考を巡らせた。

 ただでさえ思惑の絡み合った、スパゲッティのような相手の思考。そこに余計な線が追加されてしまった。

 さしもの彼も、ここまで滅茶苦茶な行動を読み切ることはできなかった。


「(このニカド攻めの意図はなんだ? 攻めるでもなく、守るでもなく、広げるでもない……意図もなく、素人が攻め込んだような――)」

「それにしても、あの町の近くにそんなたくさんの人が隠れてた、なんて驚きだよね」

「……いや、それ自体は分からなくもない。奴らは地面に(ごう)を作り、そこに隠れていたそうだ」

「そんないっぱいの穴があったら気付くんじゃ?」

「だから、定期的に発見しては埋め立てている。まさか、その中に入った奴らが生きていた……なんってことはあり得ないしな」


 彼は地下に敵が潜んでいると聞き、各地の部隊に対策を教えた。

 複数の松明を穴の深くに投げ込み、土で埋め立てるというものだ。

 これは民でも行える為、大人数を用意して速やかに行われる。故に、相手は抵抗する間もなく地面の中で窒息していくのだ。


 無論、不用意に民を危険に晒すようなことはせず、敵が弱り切るまでは対応を要求しなかった。

 事実、ここ最近では抵抗する力も失われていたらしく、民間人に犠牲者は出ていない。


 こうした兵隊以外も戦闘に参加するようになった時点で、駆除(・・)は凄まじい速度で行われていった。

 ただし、明確な死亡確認はされていない。別の出口が存在していれば、生存している可能性もある。

 そういう意味で、全く予想できないことではなかった。とはいえ、ほとんどあり得ないことではあるのだが。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ