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――アルバハラにて……。
ハーディンの屋敷に足を運んだアカリは、迷いなく家主の部屋へと向かった。
彼女の活躍は屋敷からでも確認できたらしく、協力者の富豪は感謝をもって出迎えた。
「あなたが来なかった危なかった。本当にありがとう」
「礼には及ばないよ。それより……さーて、あたしゃ活躍をもってあんたらを守ってやったよ。さ、そろそろ逃げる手段を教えてはくれないかねぇ」
「それは宝具の船だと――」
「そうじゃあない。どこにあるか、ってことさ」
「……まだ様子をみるべきだと思いますが」
「あたしがあそこで戦ったことは、ここからでも見えただろう? なら話は早い――このままじゃ、そう遠くない内にあたしを捕縛する連中が来る」
この発言を聞き、ハーディンはようやく状況を呑み込み、頷いた。
「彼らが密告すると」
「むしろ正当な報告だと思うがね。なにせ、あたしゃ御尋ね者さ。っても、警備軍の連中が黙ってたところで、善大王サマは計画の狂いに気付くことだろうさ」
「意外ですね、あなたがそこまで評価するとは」
「馬鹿にしているつもりかい? あの男がこの国でやったことを考えれば、その能力を低く見積もるのは無想家くらいのものさね」
「確かに……」
「救援を求められ、民兵を有効戦力に育成することを優先する辺り、善大王サマは緻密な計算をして動いているはず。あの戦場にしたって、あたしが必要不可欠だったかは微妙なところだしねぇ」
アカリは善大王を嫌ってはいるが、彼の計画性を度外視したりはしなかった。
それは彼女が夢想家ではなく、現実主義者だから――というだけの話ではない。
善大王の裏には、シナヴァリアがいる。だからこそ、その能力の裏付けをとることができた。
一通りアカリの意見を聞き終え、ハーディンは理解した。
「それで急いている、というわけですね。分かりました――ちょうどガルデンでの戦いも終わったことです。彼を呼び寄せましょう」
「……前に言ってた運転手のことかい? できりゃ、早めに立ちたいんだがね」
「ケースト大陸に向かった後、あなたはヒルトをずっと守ると約束できますか?」
「ま、仕事の範囲は守ってやるさ」
「そういうことではありません。私が言っているのは、あの子に付きっきりになれるか、ということです」
明らかな無理難題を前に、彼女は頭を掻いた。
「そんなのできるわきゃないよ。あんたから軍資金を受け取っておくにしても――」
「その為の人員ですよ。彼がいれば、あなたの手が空いていない時も守れる」
「ハッ、随分過保護なことだねぇ。それに、向こうの貴族サンに囲んでもらうなら、心配はないんじゃないかい?」
「……あの大陸は、組織が最も盛んに動いている場所です。少数精鋭の暴力ではなく、多数による内々の支配ですが」
初耳の情報を受け、アカリは目を大きくした。
「ちょい待ち。それじゃあアレかい? あたしらは魑魅魍魎の巣に逃げていくってことかい?」
「そうなりますね。ですが、あちらの戦力はこちらと比べれば相当に劣ります。あなたほどの実力であれば、難儀することはないでしょう」
常識人の皮を被り、途轍もない無茶を要求してきた。
これには仕事人も驚きを隠せなかったらしく、しばらく呆然としてからソファーに腰掛けた。
「ま、こっちじゃ指名手配喰らってることだし、向こうの方がマシかもしれないねぇ――それで、いつ頃発つんだい?」
「早ければ明日にも」