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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
109/1603

6

「あの子を養子にするのですか!?」


 宰相ノーブルは驚きのあまり、声を荒げる。


「ああ、他に身よりもないみたいだし、助けた僕には義務がある」

「ですが善大王様、あのような身元も知れないような子を引き取るなど……」


 ノーブルの意見は常識的だった。

 善大王は光の国の王、そんな人間がどこの誰とも知れないような少女を娘にするなど、貴族などが認めるとは思えない。


「だが、彼女を守ると僕は約束した。善大王として、嘘はつきたくない」

「……ならば、こうしましょう。生活の保護をする為に国から金を出す、これならば問題はありません」

「金があれば充足するというわけではないよ。あの子は誰にも必要とされていない、と言った。彼女に必要なのは、家族なんだよ」

 極端な理想主義者の善大王に呆れ、ノーブルは「できません」とだけ告げ、謁見の間を後にした。


 ノーブルが向かったのは、問題の根源であるアカリの元だ。


「少しいいかね?」


 ノックと同時にノーブルは声をかける。


「はい」


 扉をあけると、ベッドの上で無気力な表情をしているアカリが目に入る。


「光の国での生活はどうかね」

「……」

「答えてもらわないと困る」

「良い国」


 ノーブルからすれば、この問いに関する答えはどうでもよかった。

 大事なのは、ここで問答ができる土壌を作ること。


「君の過去を話してもらえないだろうか?」


 普通に考えれば、無粋な行動としかいえない。だが、ノーブルは顔色ひとつ変えずに問う。

 それは無知故の行動ではなく、知った上での感情制御だった。


「はい」


 アカリは自分の過去を話した。収容所での出来事など、明確に。

 話し終える頃には夕方になっており、アカリは僅かばかりの空腹を覚え始めていた。

 この国に来てから数日しか経っていないが、逆に数日間は真っ当な生活を続けている。

 朝昼晩の食事があり、夜にはベッドで眠れる。いや、夜に限ったことではない、眠くなればいつでも眠れるのだ。

 アカリが食事を欲していると理解しながらも、ノーブルは話を続ける。


「よく分かった」


 口ではそう言いながら、ノーブルは厳しい表情のまま、アカリを見つめる。


「(なるほど、この娘は狼となりうる資質をもっているかもしれんな)」


 ノーブルはアカリが収容されていた施設について、かなりの知識を持っていた。

 攻め込む前の予備知識であり、その後の立ち入りでかなりの情報を仕入れている。

 つまるところ、最初からアカリがその才を持っているのではないか、と予期していたのだ。

 狼としての才能。それは、忠誠心と同時に非情さを兼ね備えられる者。

 善意を持つ聖堂騎士、正義を持つ騎士団、それらとは違う性質。


「君にひとつ提案がある」

「なに」

「善大王様は君を救うように提言してくださった。だからこそ、君が望めば死ぬまで不自由しない生活を保証しよう」


 そこで一度区切り、目つきを変える。「だが、善大王様に恩義を感じているというのであれば、暗部として働くといい」


「暗部?」


 アカリはすぐに問う。善大王への恩義があるからこその反応速度だった。


「光の国が持つ、諜報部隊だ。この国の裏の仕事を担当している。正しい名前は陰陽騎士というが、暗部で通っている」

「……暗部」

「もちろん、こちらに所属する場合は生活保護は行わない。毎月に支払われる給与だけだ。一応言っておくが、決して多くはない」


 普通であれば保護を受けるのが無難。賢い選択だ。

 だが、ノーブルはどのような返答が来るのかを理解していた。


「……暗部に入る」

「分かった。善大王様にはそう伝えておこう」


 ノーブルはそう言い残し、部屋を出た。


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