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善大王は自分の顎をつまむと、少しばかり考えた。
「勝手に動いている……か。それならフィアが一掃した戦いで協力していたのが妙だ。いや、もちろんフィアを見てから方針を違えた、というのはあるだろうが」
「その戦いに協力しているって、そんなに変なことなの?」
「ああ、アルバハラ攻めなんてのは俺と同じ側の考えだ。そんな回りくどい考えの奴なんてのは異端、戦略的な思考を持った奴だ。それが、兵の無駄使いを許すとは思えない」
「うーん」
「万が一、俺がするなら使い捨ての戦力をぶつける。だが、奴らの士気からすれば正規兵である可能性が高い。そんなの無謀を見逃す奴が――」
「ライトって頑固だよね」
「そうか?」
「全部がきっちり完璧、って考えの人ばっかりじゃないと思うの」
「……相手にも抜け目があるってことか?」
「ライトと違って、人の犠牲を気にしないって人かもしれないし」
フィアの考えはおかしなものではなく、子供のように浅い考え、ということもなかった。
むしろ、ひどく客観的で、大衆的なものだった。
「だとすれば、部屋にこもっていても何も分からないな。先んじて相手の思考を辿れれば、と思ったんだがな」
「それってそんなに大事なことなの?」
「そりゃそうだ。実際、あのガルデンでの戦いは相手の思考を読んだ上で対策を打った。予期せぬ攻撃を許したが、おおよそ間違っていなかったと考えている」
「うん」
「それに、相手の思考を間違って読み取れば、こっちが見当違いなことをする羽目になる」
これは王道の攻めができないラグーン側の弱点だった。
善大王は戦力の不足を補う為、先手先手を取っており、それ故に一度の読み違えで敵を素通りさせるような状況に陥っていた。
さすがに全てをピンポイントで当てる必要はないとはいえ、限られた数字で相手の通過地点を当てていかなければならないのだ。
先手を取る必要のない戦いであれば、相手を捕捉してからでも対応ができる。それは今の雷の国では許されていないのだが。
「ともなく、今はアルバハラの件をどうにかしないとな」
「二人で行く?」
「いや、ガルデンにいる部隊と接続させる予定だったが、それを取り消すだけである程度は対応できるはずだ。その代わり、追加で送るはずだった部隊を分割して、両方に向かわせなければならない」
「うーん、城で待ってても解決しないような気がするけど」
「いや、俺達も出る。ただ、行くのはガルデン平原だ。急な変化に対応すべく、俺が指揮を取る必要があるだろう」
飽くまでも彼は兵ではなく、将の側に立つという方針のようだ。
「私が暴れ回った方がよくない?」
「勝つだけであれば、フィアを酷使して敵を殲滅すれば済む。だが、今の俺達は雷の国に協力しているだけに過ぎない」
「うん?」
「フィアにそこまで無理させることはない、ってことだ。それに、無理をしなくて済むならその方がいいだろ」
「でも、ライトの悩みが増えそうだし……」
「いや、そうでもない。むしろ、この戦いが長引くことは俺の思うところだ」
「それって――」
「よし、決まったからには早めに動くぞ。ほら、いくぞフィア」
善大王はそう言うと、フィアの手を引いて部屋を後にした。