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――雷の国、ラグーン城の一室にて……。
「……なるほど、あれが陽動か」
善大王は眉を顰め、報告書に目を通していた。
「ライト?」
ベッドに腰掛けていたフィアは立ち上がると、彼の傍に近づき、顔を覗き込んだ。
「いや、どうにも相手を軽んじ過ぎていたらしい」
「っていうと?」
「これを見れば分かる……が、つまるところ奴らは別働隊を率いてアルバハラに進軍中とのことだ」
「へぇ~」
報告書を見もしない少女にため息をつくと、善大王は机から目を離し、彼女の顔を見た。
「あの馬鹿正直な攻め方が世の主流であるとはいえ、それに全く疑いを抱かなかったのは甘かった。ハーディンの報告がなければどうなっていたことか」
「……うん」
「分かってるか?」
「えーっとね、ライトが油断してたってことでしょ?」
「あーまぁ、そうとも言えるが」
「で、敵の性格を読み違えた……だよね」
フィアは聞き流していた――理解できないとも――だろうと考えていた彼は驚き「おっ、そうだな」と雑な反応をした。
「それくらい分かるよ~」
「まぁ、近いことを俺も口にしていたしな。ちゃんと聞けて偉いな」
「なんか誉めてもらってる気がしないなぁ」
「まぁいいだろ。それはそうと、妙だと思わないか?」
「行動の一貫性のなさが?」
彼は頷き、「そうだ。こうした攻め方ができるなら、最初に全軍を首都に差し向けたのは解せない」と話を続けた。
「特に何も考えてなかった……ら、こんな攻め方なんてしないって話だよね」
「ああ、だから奇妙だ。こっちの戦力を軽んじていた、ってのはあるだろう。事実、俺とフィアの存在は奴らの想定の中にはなかっただろうしな――だが、それにしてはガルデン平原での戦いが先の戦いに合致しすぎていた」
「あそこまではライトの読み通りだったんだよね」
「……俺としては、あれも試しの内だった。緒戦の時点で一転特化型だと考えたが、相手がこっちの思考を読んだとすれば、ガルデンの時点で攻め方を変えるはずだ」
「そうしなかったってことは……相手が凄いってこと?」
「いや、分からない」
彼の悩みの根源は、闇の国の置かれた状況だった。
カルテミナ大陸の攻略によって、あの国は首筋に刃を突き立てられている状態にも等しい。ともなれば、開戦当時の余裕はないとみていいだろう。
「(追い詰められた国は逆転を欲し、馬鹿みたいな攻め方をする……全軍での攻め込みなんかがその良い例だ。だが、もし理性を有した指揮官がいるとすれば、あんな作戦を許すはずがない)」
闇の国は二軍を用いており、兵力は決して少なくない。
そんな状況で無謀な攻めを行う人間が理性的であるはずがない。雷の国を攪乱する為にここまでの犠牲を良しとするのは、まずあり得ないことだった。
王道の戦い、異端の戦い、そのどちらの指揮官であっても解せない思考がこの一着には存在していた。
「二人いるってことはないの?」
「なに?」
「一人でこれをやるとしたら、確かによく分からないけど……二人でやってるなら分かるかもなーって」
それについては、善大王も考えないでもなかった。
複数の部隊が投入されている場合、その部隊毎の隊長が別々に動く、ということは十分にある。
ただ、その場合はやはり最初の攻撃が不気味になってくるのだ。あの攻撃では間違いなく、全軍が投入されていた。
「確かにフィアの言うとおり、二人いてもおかしくはない。だがな、軍の決定ってのはある程度平均化されるんだよ。馬鹿正直な攻めと、じっくり攻めるっていう方針で分かれていれば、間違いなく隊長同士で揉めることになる」
「二人が勝手に動いているとしたら?」




