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――雷の国、銃器製造工場にて……。
「うむ、本格的な製造が始まって久しいと聞くが……思った以上だな」
「善大王様の示してくださった方針のおかげですよ」
肝心要とも言える銃本体の製造はハーディンが請け負っていた。
無論、他の富豪も部品単位で工場を手配し、民を労働力に当てている。
ここで驚きなのが、善大王の持ち出した幾つかの方策が自然と受け入れられたこと。
よその国では利権を目当てに撥ね除けるであろうそれを、富豪の多くが受け入れたのだ。
「教育の徹底、画一化を推し進めることによる品質の安定。善大王様でなければ思いつかない策ですよ」
「……世辞はいい。俺じゃなきゃできないのは、これを強行のレベルに押し上げることくらいだ。構想自体はお前にもあったんだろ?」
銃器製造の技術をマニュアル化し、それを普及させるというのは実のところたいして難しいことではなかった。
飯の種を譲らんとする他国であればまだしも、雷の国では自分の身内――商会のメンバーもこれに含まれる――には技術を広く教える傾向があった。
一強体勢を築くならば悪手だが、集団を一個体と考えるならばこれ以上に効率的な方法はない。
だからこそ、善大王の言葉に謙遜はない。彼は本心からこの国の本質を見抜き、答えたのだ。
「ですが、恒久的関係を築いていない工員に……それも、専門外の民にまで教えられるようなマニュアル構築はさすがといったところですよ」
「まぁ、そういうのは慣れているからな」
彼は《皇》の立場でありながら、富豪全員に等しく、マニュアル作成の指導を行っていた。
善大王が行った改稿は、かゆいところに手が届くのような補足を増やすといったものだった。
富豪の多くはこれに難色を示したが、この工場を見て分かるとおり、彼の選択が正解だった。
「民の自主性を尊重する……王としての経験ですか」
「まさか。自己責任の精神とサボりの為だ」
工員の中には教本を取り出し、作業を行う者などが見られた。
教育は当然、必要最低限のものが行われている。とはいえ、全てを暗記すること、特殊な例まで記憶するというのは中々に難しい。
だからこそ、彼は想定しうる例に至るまで事細かく記載することを要求した。そして、教本を教育課程を終えた後も使える手引きとしたのだ。
「こういうのは自分で調べた方が頭に入る。一々質問されては技術者も面倒だろ? それに、聞く当人だって面倒くさがりだ。また調べるくらいならと真剣に覚えてくれる」
「……定職となるかもしれませんしね」
これこそ、善大王の思惑にして、方針の一つだった。
この場で働く工員は皆、無賃労働や長時間労働を強いられていないのだ。
工場自体は昼夜問わずに稼働しているが、そうした人材は飽くまでも交代制を取っている。
さらに給金の支払いは比較的高い水準であり、この工場自体が戦後も維持される計画である為、習得した技術が無駄にならないという具合である。
こうした仕組みを作り上げることで、労働力が自ら集まり、戦闘の肝となる武装の品質低下を防いだのだ。
「しかし……趣味に興じる程度だった銃の改造がここまで大がかりになるとは」
「完全なコピーは作れていないんだろ?」
「それは、当然ながら」
「なら今後は、よりオリジナルに近付けていくことが目標だな。改造より解体のほうが増えそうだな」
「そこまで強力な兵器が必要になる前に、決着がついてほしいものですね」
「まったくだ」