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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1081/1603

2


 ――首都ラグーン、郊外にて……。


「全軍突撃!」


 数を数えることを諦めるほどの大軍が、先頭に立つ将の命令によって走り出した。

 これが全体の何割かはともかく、少なくともラグーンの兵力で対抗できないことは明白である。


「(ま、おおよそ読んだ通りだな。……っても、まさかここまで直接的とは思わなんだ)」


 警備軍の面々は士気が一気に低下し、ただでさえ勝てない戦が敗戦に確定しようとした。

 しかし、部隊の先頭に立つ善大王に焦りはない。

 彼は確信していたのだ。自分の相棒は一騎当千という比喩さえ越えていることを。


「《天ノ二百五十四番・瞬天征滅(セレスティアルスローター)》」


 瞬間、空は夕暮れを思わせる黄金色を(たた)えた。

 誰もが著しく変化した大空を見上げるが、その表情は等しく驚きながら、恐怖を含んだものへと変わっていく。


 天空を染め上げる橙は、余すことなく魔力を放っていた。つまり――全てが術によって生み出された導力である。


「全軍停止! 攻撃に備え――」


 命令を遮り、空の落とし物が地面を――数多くの人間を滅茶苦茶に混ぜ合わせた。


 それはまるで、数多(あまた)の星が降り注ぐ流星群の夜だった。

 天こそは蒼と橙の混じったものだが、そうとしか表現できない。

 大地に襲いかかる光弾の一発一発が破格であり、着弾点は水を抜かれた湖畔を想わせる姿へと変わり果てていた。

 そして、そうした破壊の余波として幾十、幾百の人間が死に追いやられていく。

 視界を埋め尽くしていた大軍勢は一変。()れ果てた湖畔は水を求めるかのように、()を代替とした。


「ライト、これでいいの?」

「まぁ、こんなところだろ。それと、大丈夫か?」

「……無理をすればもう一回くらいはいけるけど――人間的(・・・)に言えば、数日は休ませて欲しいかな」

「よし、許す」


 これが、《天の星》だった。

 いや、神の(ことわり)、世の理を遵守しない《天の星》というべきだろうか。

 彼女のもたらした殺戮は軍の衝突を(ゆう)に上回り、その規模は都市一つ分には相当していた。


 だが、恐ろしさはそこにない。彼女が疲弊した理由は術の重さもあるのだが、最たるは自軍を守ることを優先した点にある。

 そもそも、この術は広域を無差別に攻撃し、全てをリセットするという類のものなのだ。


 孤立無援の術者が発動し、戦局を一変させる。

 こうした術を有するからこそ、天属性は最強属性として扱われているのだ。


 ――ただ、今回ばかりは戦況の打開、という部分には不足があった。


「一時撤退! 立て直してから攻め込むぞ」


 先頭に立ちながらも、あの大量殺戮を生き延びた将は生き残った兵に号令をかけ、反転を開始した。

 このように言うと、少数を連れた敗走のようにも聞こえるが、闇の国の兵は術の範囲外に多く残っている。

 このまま突撃が行われるようなことになれば、ラグーン側も多大な被害を免れなかった。


「(ほう、意外に利口な将軍みたいだな)」


 善大王は余裕綽々(しゃくしゃく)、といった様子で敵を評価した。

 戦場はフィアの術によって荒れ、大軍を用いた突撃が困難な状態になっている。

 ここで攻撃を続行しようものなら、警備軍が踏破した者を順次射殺していったことだろう。実際、善大王はその展開を予想していた。


「(とはいえ、兵の密集具合がおかしかったな……もしフィアがいなかったら――それは想定するまでもないことか)」


 実のところ、あの術による殺戮の規模はもっと小規模で収まるはずだった。

 先鋒として攻め込んできた以上、相手は精鋭と見るのが妥当。ともなれば、兵を散開させた陣形が可能となるのだ。

 そうして軍団を広く展開することで、敵を威圧、士気の低下を狙うという手も十分にあったのだ。


 だが、今回は二軍相当の兵を用いるかのように、部隊を密集させていた。

 その狙いは正面突破。軍同士のぶつかり合いの末に勝利することを目的とした、善大王の言うところの旧時代的な戦闘方法だった。


 まるで良いところのないように見える先鋒部隊だが、彼が危惧した通り、真っ当な戦闘を成立させなくするフィアが不在だった場合――精鋭の突破力により、この一戦で雷の国が陥落していた可能性もあった。


「そろそろ人員が不足する頃と見ていたが、割といい指揮官が残っているようだな」

「えっ? そうなの?」

「ま、そうだな。っても、こっちにはフィアがいるからな……頼りにしているぜ」


 あれだけの殺戮を行いながらも、フィアはいつもと変わらず、頬を赤く染めた。


「あ、あれが《大空の神姫》……っ!」

「まるで天災だ……!」


 敵はもちろん、味方まで震え上がっていることに気付かない辺り、彼女の神経質さも少しは収まったようだ。


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