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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
108/1603

5

 それから数日が経ったある日、変化が起きた。


「光の国の連中が攻め込んできたぞ!」

「何故気づかれた! 情報を防いでいたはずだぞ」


 部屋にも聞こえてくる声を耳にし、アカリは体を起こした。


「全員を寄せて迎撃に回るか?」

「いや、まず最初に実験動物達を始末するぞ。足がついたら終わりだ」

「だが、それでは俺達が……」

「組織の命令だ! 最優先にしろ」


 そこまで聞いた時点で、アカリはこの後に何が起こるのかを予見した。

 その予想はすぐに的中し、部屋の中に複数人の男が入ってきた。大抵が活力を失っているので、起き上がるものどころか視線を向ける者さえいない。

 だが、一人が殺された時点で全員が覚醒した。

 しかし、それは無意味。入り口は塞がれ、完全に袋の鼠。抵抗する力も残されていない。

 《魔導式》によって放たれる術、剣などの斬撃によって次々と殺されていく。アカリはそんな様を、ただ黙ってみていた。

 刹那、あの時に話していた姉妹が目に入る。怯えた妹をかばう様に、姉が前に立っている。

 ただ、そんなものをみて心を痛めるはずもなく、男は平然と剣を振り下ろした。

 生々しい触感の後、アカリは倒れた。

 彼女は自分に生きる意味がないと気づいていた。そして、この二人にはまだ生きる意味があると思った。

 光の国が来た、と言っていた。僅かでも生き延びれば、その間に救助が来る可能性もある。彼女は賢いからこそ、それを瞬時に判断した。

 意識が薄れていく最中、アカリは自分がかばった姉妹が殺される様子を見てしまった。

 自分の行動に意味などない、それを実感してしまった。

 多少の希望すら許されず、後悔の感情だけを残し、アカリの意識は闇に落ちた。

 瞬間、意識が再覚醒する。


「(わたしは……まだ、生きている?)」


 目玉だけを動かし周囲を確認し、生存者がいないことに気づく。

 男達は仕事を終えたとばかりに血振りなどを済ませ、迎撃に向かおうと部屋の外へと向かおうとした。


「げほっ、げほっ……」


 不意に血を吐き出してしまったアカリ。あと少し我慢できれば、助かる可能性はあった。

 男達は一斉にアカリの方へと注意を向ける。死体の山に埋まっているが、魔力はいまだに放たれ続けていた。


「生きているぞ。殺せ」


 剣を持った男が再び近づいてきた。一度だけでは済まず、二度も殺されるのか──とアカリは絶望の淵に立たされた。

 だが……。


「《光ノ五十九番・閃光(レイ)》」


 目にも映らない閃光が剣を持った男の体を吹っ飛ばした。


「そこまでだ! 無駄な抵抗をやめるんだ」


 白い法衣をまとった、金髪の優男。線のような細い目だが、眉が斜めになり、怒っていることが判断できる。

 男達はアカリから目を離すと、男に向かって攻撃を開始した。

 瞬間、凄まじい速度の緑色がアカリの目に入り、瞬きの後には男達が一斉に倒れた。


「善大王様、制圧が完了しました」


 深緑色の髪をした、目つきの悪い男は無感情に告げる。


「うん、ありがとう」

「なるべくなら、誰かをつけてください。あなたの身に何かがあれば……」

「分かっているよ」


 善大王と呼ばれた男はアカリに近づくと、手を差し伸べた。


「大丈夫かい?」

「……」

「早く助けにこられなくて、ごめん」

「……なんで、なんで! なんでわたしなんかを助けたの! わたしよりも、助かるべき子がいたのに!」


 アカリは自分の生に執着していなかった。だからこそ、一度目の死の瞬間に見た、姉妹の死が受け入れられなかった。


「そんなことを言っちゃいけない。人は誰だって平等だ、助からなくていい子なんていない」

「わたしはもう、誰にも必要とされていないの! お父さんもお母さんも、わたしを売ったから。もう、誰も……」


 そこまで言うと、アカリは泣き崩れてしまった。

 もう、涙は枯れ果てていたと思っていただけに、アカリはこの現象を理解できなかった。


「なら、僕が君を必要とするよ」


 そう言い、善大王はアカリを抱擁した。


「本当に?」

「ああ……約束するよ」


 善大王の言葉を聞いた瞬間、アカリは安堵し、彼に抱きついた。


「君、名前は何って言うのかな」

「……名前は、ないよ」


 実験動物として与えられた番号はあるが、それを使いたくはなかったのだろう。


「そうか。うん、じゃあ──君の名前はアカリだ」


 抱擁を解き、善大王はそう言う。

 アカリはそれがどういう意味なのかが気になり、善大王の視線の先を追った。

 そこには、蝋燭が一本立っていた。火が灯り、揺らめいている。


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