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――現在、ラグーン城客室にて……。
「地下の連中はラグーン王に恩義を感じていた。当然だ、あの王様は明確な見返りも要求せずに能力者なんて厄介者を引き受けていたんだからな。だからこそ、勝てると踏んだ」
「そうだったんだ」
「地下で行った宣誓の時も、俺の想像以上に良好な反応だったしな。っても、この餌で地下以外の人間がどれだけ加わるのか、これが最大の問題だな」
「ライトらしくもないね」
「そうか?」
「うん。ライトなら全部計算通りに進めそうだなって」
「……こればっかりは信じるしかないからな」
フィアは迷っていた。この判断の変化が刻一刻と進む善大王への変化なのか。それとも、もとよりそれ以外に術がないのか。
もし前者であるならば、このやり方は甘いものになってくる。それこそ、彼の言った通りに無理の埋め合わせを誰かが行わなければならなくなるのだ。
そして、それをするのが間違いなく彼自身であることを、彼女は察していた。
「ライトはまだ、ライトのままだよね」
「……まぁ、幸いながらそうらしい。本当の善大王を知らない俺が言ってもアレだが」
「うん、そう言えるってことは……たぶん、まだ大丈夫だよ」
善大王のなれの果てがどのようなものか、それを理解している彼女は安堵し、いつものように彼へと抱きついた。
「さて、打てるだけの手は打った。後はどれだけ進むかだ」
「……でも、ライトのやり方って回りくどくない?」
「そうか?」
「武器をいっぱい作ったり、兵隊を集めたり、全部時間が掛かるし……すぐに結果が出るわけじゃないよね」
「うむ、フィアも一介の貴族になったわけだな」
「それって褒められているの?」
彼は笑うと、彼女の頭をぽんぽんと叩いた。
「その見方、おおよそ間違いじゃない。こんな決戦前に悠長な策だと、貴族が居れば言われてたことだろうな。だが、幸いなことにこっちの連中――富豪は視野が広かったってことだ」
「……つまり、貴族の私がよくないってこと?」
「まぁ、そうなる。とはいえ、駄目だと思える分だけ前進しているってことだ――そもそも、この戦いは短期決戦じゃない。今までの戦と違ってな」
フィアは反応に困りながらも「長引いちゃうの?」と不安そうに言った。
「ああ、今まではやってくる敵を打ち払えばそれで終わりだったが、それは戦力が豊富だからできたことだ。それと、相手が切羽詰まっていない場合だな」
「闇の国は全軍を出してくるかも、って言ってたし……たしかに、簡単にはいかなそうだね」
「だからこそ、こっちは時間稼ぎをしながら地盤を固め、相手を封殺していく方針を取る。……世に忌むべきとされた正真正銘の戦争だ」
「えっ?」
「今までの戦いは紳士的だった。主力部隊が敗れる、もしくは代表同士が一騎打ちをして決着を付ける……そんな風な、決闘の形式で全てのカタがついていた。だが、今回は違う。個としての強さより、集団の強さが生きてくる戦略の戦いだ」
しばらく考えたものの、この神姫にそれが理解できるわけもなく、微妙な反応のまま問答は終えられた。
「(この戦いをきっかけに、ラグーン人の意識が大きく変わるようなことになれば、後々味方に組み込む時に都合がよくなる――救世主面しているが、どうにもなりきれないものだな)」
彼の中に短期決戦――つまり旧時代的な決着という終わりが存在していない、ということはなかった。
常に最悪の状況を想定する彼であっても、世の大半を占める人間が未だ古い時代の存在なのだ。
もちろん、彼は自分が慎重すぎることを理解した上で、その念入りな策を無為にしないだけの利を想定している。