表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1075/1603

19

 善大王は迷いなく、恫喝(どうかつ)を行った。正義や善とは正反対の、純粋な悪のやり方だった。


「水の国なら王様が締め上げられるし、火の国なんかで商売しようとしたら命がいくつあってもたりない。な、雷の国が残った方が都合がいいと思わないか?」


 勝負の要を相手に――それもこうも簡単に、恐れなく言ってのける辺りは善大王の度胸の凄まじさが知れる。

 彼の場合、良心の呵責(かしゃく)もなく、相手が呑まざるを得ない条件を叩きつける。だからこそ、礼儀などをまったく重んじない。

 相手にできるのは不平不満を口にすることや、言い訳で間を繋ぐことくらいのものである。


「それでも頑張ろうっていうガッツのある奴がいるなら……まぁ、俺とフィアが潰しにいくけどな。そっちの場合は代替案を使う必要もない。随分と簡単な話になってきただろ?」


 もはや、彼の有り様は余人が想起する夢幻王のそれだった。

 論理の面でも相手を行き詰まらせ、それに従わないならば実力行使もやまないなど、暴君や悪王の行為でしかない。


「善大王様のやり方とは思えませんな」


 クラフォードは彼の本性を知りながらも、内々の関係を悟られないように(よそお)っていた。


「善大王ってのは悪と戦うのが仕事だしな。本当なら、この右手の甲を見せただけで、みんなが全額を投じてくれるくらいに思ってたんだぜ? それと比べたら、理性的な要求だと思うぞ」

「理性的、ですか」

「それに、逃げないで援助してくれるなら、十分に採算の合う数値にしたつもりだ。俺が(そし)られるのは逃げる奴が出た時くらいだな」


 実際問題、彼の言い分にも一理あった。

 《皇》の特権が機能していたならば、富豪が全てを差し出していたことだろう。しかも、それが戻ってくるという保証はない。

 だが、善大王の横暴は飽くまでも逃亡を防ぐ為のものであり、協力する場合の要求は決して法外なものではない。

 むしろ、商売として考えてもプラスになる可能性が高い提案だった。


「その態度はナタク王のようですが、やろうとしていることはレイン王を思わせますね」


 そう言ったのはハーディンだった。


「分かっているなら乗っとけよ。英雄の大船だぞ」

「良くも悪くも、我々富豪は根を張っている側です。ですが、民を相手に同様の方法が通じるとは思えませんね」


 彼の出した(たと)え話は、水の国の建国記のものである。

 二代目フォルティス王とされるレイン王は、父である悪王ナタク王を打ち倒すべく、当時の貴族や奴隷を纏め上げたと言い伝えられていた。

 その具体的な手段が、貴族を囲い入れ、兵站を盤石にした状態で奴隷を戦力に計上したというものである。

 まさしく、今回と近い状況だ。ただ、例え話を交えたのは、彼なりの抵抗――善大王に対する不満の表れだったのかもしれない。


「今の状況が色々と物語じみている、っていうことを考慮するべきだな。俺のやり方がお伽噺(とぎばなし)の次元って言いたいなら、俺が誰かをよく考えるべきだな」

「……言いたくなる気持ちくらいは、理解して欲しいものです」

「ああ、そりゃ分かってるよ。それと、民の囲い込みは物語通りにはいかないぞ。なにせ、こっちには人材が不足しているものでね……あんたらにも相当に頑張ってもらう」


 話し合いでさえない会議は、全員が雷の国と連携するという形で決着が付いた。

 ああも難しいと考えられていた問題の一つが、こうも無抵抗に解決したことは驚きだが、もう一つの問題が善大王の頭を悩ませていた。


「(こっちはどうにかまとめられたが……民の方は本当にどうしたものか)」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ