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――雷の国、ラグーンにて……。
「闇の国が攻めてくるって本当か?」
「なんでも定期船の乗客達が艦隊を確認したって話だ。幸い、見つからずに突破できたみたいだが」
「くそ、俺もその船で逃げりゃよかった!」
善大王とフィアは唖然としていた。
船を借りてさっさと戻ろうとしていた矢先、闇の国の侵攻などという予期せぬ戦いにかち合ってしまったのだ。
「なぁ、フィア……もしかして俺って呪われているんじゃないか?」
「呪いに運命を変えるような効果はないはずだけど」
「……いや、そういう話じゃなくてだな。こんなに厄介事と相対するなんてそうそうあることじゃないぞ」
「言われてみるとそうだね」
随分と気楽なフィアとは対照的に、彼は驚くほどに呆れかえっていた。
「(こりゃ、謝罪だけじゃ済まなそうだな。さっそく、借りを返さなきゃならないわけか)」
後回しにする気だった善大王はげんなりとなりながらも、王城を目指して歩き出した。
騒ぎの真っ只中にある城下を足早に抜け、小さな相棒とはぐれないようにしながらも、等速で歩く以上の速さで城へと到達した。
今回は出し惜しみナシとばかりに、彼は右手の甲を番兵に見せつけた。
「善大王だ。ラグーン王と話がある」
「……しばらくお待ちを」
反応がいまいち冴えないことを確認し、彼は現状を再認識した。
番兵が門近くの小さな扉を潜っていくのを確認すると、フィアは小声で「なんか愛想悪いね」ともう一人の番兵がいることも気にせずに不満をこぼした。
「そういうことを言うもんじゃないぞ、と。ってか、愛想悪いのはお互い様だろ」
「ライトも確かに冷たい態度だったしね。急いでいるんだろうけど」
「……お前に言ったつもりだったんだがな、フィア。いや、まぁそれは後回しだ」
「えっ」
今にも不満を言い返そうとした矢先、小さな扉から番兵が――ではなく、少しやつれ気味なラグーン王が直々に現れた。
「ラグーン王が直々に、か」
「それはこちらの台詞ですよ。善大王様が直々にラグーンに訪れてくださったこと、感謝いたします」
この発言を聞いた時点で、彼は口許を緩め、視線を逸らした。悪い予感が的中してしまった、という顔だ。
「立ち話もなんですので、どうぞこちらへ」
「あ、ああ……ご丁寧に」
他人行儀な善大王――とフィアを連れ、三人は謁見の間へと向かった。
この場に護衛が一人も付いていない、という状況は明らかに異常だった。無論、善大王はそれに気付いていた。
「(俺達を試しているのか?)」
「(それもあるけど、かなり自暴自棄みたい……昔の私みたいに)」
勝手に心を覗くな、と言うこともなく、彼は「(やはり、ライカを失ったショックが大きいってことか)」と思考で返答して見せた。
「それはそのはずだよ。ライカがいないのに闇の国に攻められるなんて、もうどうしようもないって思ったりするでしょ? それに……大切な人と会えないのは……すごく、辛いんだよ」
「神姫様には全てお見通し、ですか」
フィアはビクンと体を振るわせ、ラグーン王ではなく善大王に頭を下げた。
彼はそれを正させ、王に向かっても謝罪するように仕草で伝えた。
「いえ、そこまで強かならばと護衛も連れていないのですよ。あなた方の実力は理解しているつもりです」
「済まない、ラグーン王」
「それは、なにに対しての謝罪ですか?」