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――馬車内にて……。
「ライト、あれでよかったの?」
「よくはないな。実際、目的はなにも果たせなかった」
「だよね……」
「今回の火の国で得られた利は、スタンレーを始末できたことくらいだ。これで、今後奴の介入を恐れずに済む」
「あれ? 同盟に戻ってくれるっていうのは?」
善大王は頭を抱えて見せた。
「それは約束事がなかったとしても、火の国が呑まなければならないものだった」
彼は火の国で買った色鮮やかな飴を五つ取り出し、膝掛けの赤いビロードの上に置いた。
「俺としては、三国同盟は一度なかったことにしても構わなかった。まず、俺達がケースト大陸に戻れば二カ国を引っ張ることができる……幸い、三国同盟で実績もあげたしな」
そう言うと、橙と黄と青色の飴を並べた。
「こうなれば、三国同盟だ。これだけの戦力でライカを救出するといえば、嘘とは思わないだろう……つまり、これで四カ国の同盟だ」
紫色の飴を並べると、続くように赤い飴をその列に並べた。
「こうなれば勝ち馬だ。ヴォーダンが保守派である以上、戦後のことを考えて手を貸さざるを得ないだろう……つまり」
「どっちにしろ仲間になったってこと?」
「ああ、ちなみに言えば雷の国が信用しないとしても、火の国は三国同盟以上に到達した時点で連結を求めてくるだろう。そうなれば、雷の国も取り込める……前回の三国同盟が重要だったのは、絶対に引き入れられるとも限らないガルドボルグ大陸だけで揃える必要があったからだ」
そこまで言い切り、善大王は黄色の飴を舐めた。続くように、フィアは橙色の飴を拾い、ひょいと口の中に投げ込んだ。
「(とはいえ、光の国との連絡が取れない今……三国以上というのが可能かも怪しいところだが)」
いくら言い繕ったとしても、此度に成立した三国同盟の破綻自体は決して軽視できる問題ではない。
ライオネル領主に嵌められ、組織の吸血鬼に妨害されたことが最大の綻びとなっていたのは言うまでもない。
「……まぁ、あれだ。雷の国の件については思うところがないわけではない。謝罪の一つや二つは入れておくべきだろう――それに」
「それに?」
「最悪の場合はハーディンに頼んで手配してもらう。それも駄目ならダーム商会だ」
「じゃあ、今度こそ帰れるんだね」
「それは確実だ。火の国と違い、雷の国は航行技術が発展しているからな。最悪民間頼みでも十分に辿り着ける、たった二人だけならな」
善大王は余裕を見せているが、内心はかなり焦っていた。
火の国の一件は合理というより、フレイア王の善意を信じた上で――その他、救える者を増やす為――多くの時間を費やした。
しかし、その彼らしからぬ優しさが結果として遅れを作ってしまった。ただでさえ地合いが悪いと見える今、このロスは軽々と見逃せるものではない。
「にしても……あーくそっ、同盟の件がなけりゃフィア経由で光の国のことも聞けるのにな」
「聞いちゃ駄目なんだよね、お父様には」
「……ああ。自分の国の状況も知らない王、なんてのが知れたら同盟の時に難癖をつけられそうだ」
「私が言ったらどうにかなるかも?」
「なるかもしれないが、フィアありきの信頼じゃ正直弱い。あの意地の悪い王様のことだ、それこそヴォーダン以上に同盟の中核としての責務を問われかねない」
「言われてみると……そうかもね」
さんざん甘やかされてきたとはいえ、父が持つ王としての性質については彼女も知るところである。
「ま、今度こそは面倒事に巻き込まれないようにさっさと抜けよう、だな」
「うん!」




