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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1063/1603

7F

「大規模攻撃作戦に際して、闇の国側が国民から徴収した資材は……それによる魔札の出入り――こんなのは無駄な作業だ」


 呆れかえるような声が、誰も居ない部屋の中に響いた。


「無駄でも、やらなきゃならない。それが軍人だよ」


 ノックもなく静かに入ってきたラゴスを見た瞬間、ディードは急いで頭を下げた。


「……ラゴスさん、申し訳ありません」

「いや、気持ちは分かるんだがね。ただ、僕ら軍人は上からの命令に忠実で、何も考えない。それが大事だとは……」

「はい。以前にも」

「なら、それを忘れないことだよ。国が危機であればあるほど、忘れてはいけない」


 そこまで言うと、ラゴスは適当な席を見繕うと、腰を下ろした。


「また、城下で処罰が下されたそうだね」

「……はい」

「君にも当たって欲しいのだがね」

「申し訳ありません」

「……ふむ、君はどうにも甘すぎるらしい。いや、でもそれはいいだろう。問題は、君は彼らのように正気に戻ってはならない、ということだ」


 彼は気付いていた。この戦争、多くの民が不満混じりに吐く言葉にこそ、真実があると。

 いやむしろ、軍に携わる者だからこそ、余計に分かってしまうのだろう。


「降伏すべきだと思います。現状、魔物の被害が無視できない以上、交渉の余地はあります」

「交渉の余地……ふむ、それはあるだろうね。ただ、上はそれをしないだろうし、許しもしないだろうね。そもそも、魔物(あれ)が僕らの及び知るものとも限らない」

「暴走する、と?」

「利害が相違するようなことになれば、敵対することもあり得る……そう予測すべきだね」


 実のところ、それは恐ろしく危険な状況だった。

 カルテミナ大陸が攻略されて以降、闇の国を守り続けているのは他でもなく水棲(すいせい)の魔物だった。

 高機動にして大型の魔物が海中に潜み、迫ってきた船を定期的に轟沈させているからこそ、本格的な本土襲撃は防がれているのだ。


 だが、これは魔物に包囲されている、という風にも解釈できる。もし、彼らが何らかの理由で刃を突きつけてきた時、闇の国は瞬く間に滅ぼされることだろう。


「結局、僕らは進み続けるしかないんだよ。踏み倒し濃厚な魔札を吐こうとも、捨て駒として使われる国民の命が投げられようとも」


 ディードは立ち上がろうと机に両手を置いたが、すぐに籠もっていた力を抜いた。

 そして、机の上の資料に目を向けた。


 国民を二級戦力として、軍に加える。採用基準は若く健全な男性。退役が許されるのは、戦争が終結した時。

 滅茶苦茶とも言える条件を見て、国民を思うディードは再び無力感に(さいな)まれた。


「(戦いの素人を回すなんて……くそ、わたしにもっと力があれば)」


 力、という単語が頭を過ぎった時、彼は不意にライカのことを思い出した。


「(それにしても、あの娘はどこに行ったんだ? 巫女様も状況は伏せたまま、こちらの事務方で働けと言われたが……)」


 第一、第四連合部隊が出撃した前後、ディードは雷の巫女の監視から外されていた。

 理由は説明されず、軍人としてそれを聞くこともなく――というより、彼女に興味がなく――彼は今まで時間を過ごしてきた。


 しかし、いざ居なくなってみると、その静かさと穏やかな暮らしを実感せざるをえなかった。


「(まだ、あの娘に付き合っている方が気が楽という気もしてくる)」


 そんな言葉を頭の中で呟き、彼は仕事に戻った。




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