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――火の国、メルトにて……。
仕官が決まった後、ガムラオルスはスケープをカーディナルまで運び、一人でこの地に訪れた。
そこはトリーチが匿われていた町であり、ガムラオルスにとって彼と繋がる唯一の場所だった。
並び立つ墓は、かつてトリーチが作ったものだった。スタンレーによって殺された町の住民達の墓場を、ただ一人の生き残りである彼が作ったのだ。
ガムラオルスは適当に大きな石を見繕い、そこに剣でトリーチの名を刻み込んだ。
骸はなくとも、彼の墓を都合するならばここが適切、だと彼は考えたのだろう。
「トリーチ、仇は討ったぞ」
返答なき石に呟き、彼は足に装備していたものを外した。
あの戦いで彼を助けた《天駆の四装》は静まり返り、もはやただの鎖射出装置に戻っていた。
「あの戦い、お前のおかげで勝てた」
やはり、何の返答もなかった。
まるで夢の経験のようなものだった。彼はあの戦いの中、確かにトリーチを感じていたが、戦いの終わりと共にそれは消えてなくなった。
死者が蘇るはずがない、と思いながらも、あの時に声は紛れもなく本物だった――彼はそう断じていた。
「お前と戦ったのも、会ったのも、今考えてみればたった一回だったな。長い間付き合ってきたわけではないが……お前は……」
彼の瞳から、涙が流れた。
「地上で初めてできた、友だった」
飛行を理解し、同じ力で競い合った彼を、ガムラオルスは友だと言った。
だが、本当にその通りなのだろう。彼にとって、本当の意味で友と呼べる存在はトリーチだけだった。
ミネアは同類ではあるが、友というよりは戦友という類であり、ヴェルギンに関しては対等ではない師匠だ。
唯一、対等だと認められたのが、彼だったのだ。その五分と五分の友情こそ、彼にとっては絶対なものだった。
「俺は誰よりも高く飛ぶ……俺は誰よりも、速く飛んでみせる。だから、トリーチ――安らかに眠ってくれ」
《天駆の四装》を墓の前に置くと、彼は背を向け、両肩を緑色に輝かせた。その翼は邪悪さを失い、かつてのままの無骨な姿に戻っている。
「さらばだ、我が友よ」
翼が地面を叩き、彼は空へと飛び立った。
もう振り返ることもないかのように、その高さは空の蒼に迫り、その速さは風よりも迅速であった。