17Δ
――地下、燃えさかる通路内にて……。
焼け付くような熱気が、文字通り気道を灼いていくが、もはや肉体が死亡している彼には関係がなかった。
「おれは、なぜ、歩いているんだ」
不意に言葉が口を這い出てきたことに驚きながら、彼は何の意味があるのかも分からない歩みを続けた。
「どこに行くんだ、おれは。なんで、止まらないんだ」
瞬間、誰かが彼の横を通り過ぎていった。
気のせいかと思いながらも、その姿を追おうとした瞬間、金髪の少女が彼の真横をすれ違った。
「……そうか」
歩みを進めていく度に、多くの人間が彼の脇を過ぎていった。
燃える炎のような赤髪が、人相の悪い針鼠のような男が、優しげな表情をした老人が、藍とも紫とも言える髪の男が、飛行能力を用いた男が――いや、それ以上に、数え切れないだけの者達が。
それらは紛れもなく、彼が今まで見てきた死に他ならなかった。
周囲の炎にはうっすらと虹色の光が混じり、彼の意識は揺らぎながらも、どこかで明瞭さを保っていた。
「おれは、多くの命を糧にしてきた。だが……」
彼の予想通りか、最後に彼とすれ違ったのは一人の盗賊だった。盗賊らしくもなく、盗みの下手な――お人好しな盗賊だった。
他の誰よりも会いたいはずの人物。しかし、彼は歩みを止めなかった。
「そうだな、ボス……おれは、こんなところじゃ止まれないな」
瞬間、彼は振り返ることも、先に進むこともせず、脇道に逸れた。
ストラウブが眠る場所とも、ストラウブの幻影が過ぎていった場所とも違う。もう一つの、分かれ道に向かって歩き出した。
あふれ出る血は焼けて赤黒くなっていき、インクの切れた筆のように掠れた文字を描きながら、彼は進んでいく。
「おれは止まらない……だから、お前も止まるんじゃねぇぞ」
意識が飛ぶ寸前、彼の視界には黒い髪をした男が映り込んだ。
その瞳は空色で、虹色の光が灯っていた。