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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
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15Δ

 ――過去、砂漠にて……。


「父さんはおれを拾ってくれたんだよな」

「……そうなるな」


 アリトと出会ってしばらくした頃、幼いスタンレーはそんなことを確かめていた。


「何か嫌なのか?」

「そんなことはない。だが、おれができる限りのことはする。恩には報いたい」

「……ははは、子供のくせにナマ言うんじゃねえよ」


 頭を撫でながらに、ストラウブは彼の髪をくしゃくしゃにしてみせた。


「その気持ちだけで十分だ」

「それじゃおれが納得できない」

「納得……納得か。なら、盗賊ギルドのボスにでもなりたいもんだ」

「……は」

「今すぐってワケじゃねえよ。それに、半分は嘘だ――俺は俺みたいな弱い盗賊が狩られる今を変えてぇんだよ。それをするにゃ、当然ボスを目指さなきゃならないってわけだ」

「なるほど」

「分かったところで渡せやしないだろ? そういうことだよ」


 スタンレーはしばらく考えた後、口を開いた。


「無理でもない。父さんの考えに協賛する盗賊は少なからずいるだろうし――他の勢力を巻き込めば、今の状況は変えられるかもしれない」

「そんな()みたいなこと」

「おれが夢じゃなくする」


 真剣な少年の眼差しを見て、ストラウブは優しげな親の顔から一転し、後のボスの片鱗を感じさせる表情に変わった。


「なら、期待して待っとくとするぜ」

「……ああ」


 この後、スタンレーは夢を夢にしない為、この時に口にした方法を実際にやってのけた。

 冒険者やカーディナルを巻き込み、暴力によって組織内部を平定し、ストラウブが望むようなことをしてみせた。


『だが、おれはなにもできなかった。結局、ストラウブという弱い盗賊一人を守ることもできなかった。おれは、望みのもの(・・・・・)を渡すことは、できなかった』


 刹那、世界がブレ、彼の世界に自分の知る――明瞭な過去の光景が巡った。

 それは、スケープがまだ幼く、何も手に入れていなかった頃のことである。





「スタンレーさん、プレゼントを渡したいんですけど」

「誰にだ」

「……スタンレーさんに」

「不要だ。お前はそんなこよりも、多くのことを学ばなければならない」

「でも、スタンレーさんにワタシは助けてもらいました。だから――」


 その様を見たかつてのスタンレーは、()と同じように過去の自分を重ねていた。


「おれはこの世界を変える」

「……はい」

「この世界の裏側とやり合い、全てをおれの思い通りにする。もし何かで返したいというなら、この手伝いをしろ――おれもまた、それ以外に欲しいものがない」

「つまり、命令に従えってことですか?」


 彼はしばらく考え「今はそれでいい」とお茶を濁すような言葉で応じた。


「なら、スタンレーさんが世界を支配できるように、頑張ります。絶対に頑張ります!」

「……ああ」


 彼はただ面倒だと思う反面、返報(へんぽう)を求めない心境に変わっていた。

 そもそも、この時点でスタンレーは白を通じ、組織の存在を認知していた。故に、心のどこかでそんなことはできないと――叶わないものを要求したと理解していたのだ。


『だが、スケープはおれの期待に応え続けた。あと一歩で父さんの願いが叶えられるところまで、おれを導いてくれた』


 彼は全てが終わりに向かい往く中、気付き始めていた。

 《選ばれし三柱(トリニティア)》である彼女がどれだけ自分を支え、そして幾つかの無理を壊してくれたのかに。


 ――いや、それは正確ではないかもしれない。


 彼女がしたのは、無理を無理だと感じさせないことだった、のかもしれない。

 そしてそれは、ストラウブもまた同じなのだろう。無理だと諦めた夢を、子供が全力で支えようとしてくれたからこそ、諦めずに走り続けることができた。

 期待に応え続けたのは、子の方だけではなく、親の側でもあった。


『あいつがおれになにかを問う度、おれはスケープの望むおれであろうとした。それがもし、ここまでの原動力だったとすれば――おれのプレゼント()きっと……』


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