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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1052/1603

13Δ

 ――闇の国にて……。


「貴様のような男がいるとはな」

「貴方のような人がいることも驚きですよ。まるで運命ですね」


 スタンレーは片膝をついていた。

 完全に負けが確定したわけではないにしろ、このままやり続けても勝ちの目は薄い……そういう状況だった。


「組織に入りませんか?」

「組織……だと?」

「はい。人間はより進化する為、世界の裏で活動を続けている組織です。名前はイーヴィルエンター、遙か古から存在する老舗(しにせ)集団なので安心かと」


 彼に声を掛けた男は、白だった。やはり、彼は傷一つ負うこともなく、相手を制していた。

 その上で、組織に入るように勧誘していたのだ。


「世界の裏から……」


 しかし、彼にとって気に障ったのはその部分だった。

 それはまさしく、彼が実行しようとしていたことだった。それを先んじて行われたことは、世界を掌握しようとしていた彼からすれば知りたくもない情報だった。


「命令はしませんよ。あなたが好きなように利用すればいいんですよ」

「なんだと」

「あなたもそういう狙いがあるんでしょう? でもなければ、盗賊ギルドの掌握なんて行うはずがない……でしょう?」


 秘密裏に行ったはずの工作が気付かれていることに驚く一方、眼前の男が――組織の力を彼は悟った。

 その上で、そこまでの力を有する組織が自分の自由を許そうとする、という奇妙さに違和感を覚えた。


「おれが貴様達を邪魔しないとも限らんぞ」

「いえ、向かうところは同じなので――あなたが自由に進めば、それだけこちらからしても好都合です」

「抜かせ」

「我々の目的は……とりあえずの目的は戦争です――それも、世界規模の」


 これを聞いた瞬間、スタンレーは過去の場面が脳裏を過ぎった。


「……ならば、おれは貴様らと敵対することになりそうだ」

「むしろ、我々についたほうが情報が来る分都合がいいかと。戦争の発生は確定していますよ――我々のボスが夢幻王となった時点で」

「夢幻王……だと!?」


 《皇》にまで内通者がいる、という事実は驚愕だった。

 その時点で、確かに戦争を起こすことは難しくなかった――それどころか、夢幻王が戦いを挑むとなれば、世界はおとぎ話の世界になるのだ。世界規模という表現もおかしくはない。


「こちらの想定では、各国の勢力を迎えます。現状でいえば……火の国のカーディナル辺り、水の国の冒険者ギルド、雷の国の富豪、光の国の教会……といったところでしょうか」

「(冒険者ギルドはこちらも押さえようと動いている場所だ……なにより――カーディナル、アリトか)」


 まさに、旧体制を打ち砕いて新体制を築くには十分な面々だった。


「狙いは国家の没落か」

「ええ、どんな人間でも人間らしく生きていける世界、それが我々の狙いですので」

「素晴らしい組織だ」

「そうですかね? 実力がない人間は容赦なく淘汰される――それはひどく妥協のない厳しい世界だと思いますが」

「……貴様は組織の意図に反した男なのか?」

「さて、どうでしょう。少なくとも、私はボスに従うまでですよ。あの人がそれを望む限りは、いくら疑問を抱いても迷うことなく付き従います」

「……どこかで聞いたような話だ」


 あまりに見覚えのある状況に、彼は笑った。


「多少興味がわいた。いいだろう、貴様達に付き合ってやろう」

「ああ、なら黒の方に通してください。なるべく、私経由で入ったなどとは言わないように」

「黒……誰だ」

「私の兄弟ですよ。彼は私のことを警戒するあまりに、自分の派閥の人間以外には情報を吐かない傾向があります――ですから、あの人の側についてください。もちろん、そちらでも自由な態度を取ってくださって構いません――彼ならば、あなたを潰すことはできませんから」


 分からない部分が多いながらも、彼はこれを呑むことにした。

 アリトを砂漠の王様にする為にも、自分が世界を裏から掌握する為にも、なにより――確実に発生する戦争でストラウブを生き残らせる為にも、組織の利用は必要になってくるからだ。


「貴様の名は」

「白です。分かりやすいでしょう?」

「白と黒か、冗談のような取り合わせだ」

「父は名前にこだわりがない方でして」

「……」


 義理とはいえ、自分の父親はしっかりした名前をつけてくれたものだ、と彼は内心で考えていた。

 というよりも、砂漠で発見された時点で、一歩間違えば奴隷になっていてもおかしくはない状況だった。良くも悪くも、彼は幸運だった。


「貴様の要求は分かった。おれの方から黒とやらに接触を図ろう」

「いえいえ、貴方はただ目的通りに――いままで通りに動いていただければ結構。組織としても、貴方の動きは目に付くものですので」

「……常に見張られている、と」

「むしろ、見ている先で勝手に暴れている……と。両者の目的が合致していれば、なにも驚くことはありませんよ」


 確かにそうではあるのだが、良い気分になる話ではなかった。



「それと、最後に一つだけ助言を」

「なんだ」

「人の死を覆すことは決して楽ではありませんよ――それどころか、おそらく不可能といってもいい」

「なんのことだ」


 言いながら、スタンレーはストラウブの未来を知る人物なのではないか、と勘ぐった。


「貴方の身を案じただけですよ。一人で動くにしては、貴方は無茶をしすぎている」

「フッ、そんなことか。余計なお世話だ。それに、おれは初めから死んでいるような男だ。己の死などどうとも思わない」

「……ですか。ならば小さな親切はここまでにするとしましょう。貴方にとっては大きなお世話なようだ」

「分かっているならば口にする必要もあるまい」

「何かを変えようと遮二無二(しゃにむに)働く人を見ると、ついお節介をだしたくなるんですよ」


 つかみ所のない男、それがスタンレーの中での評価だった。

 実際、彼は具体的な情報を避けて通り、場を乱そうとしているようにしか見えなかった。

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