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「ああ、そうだ。巫女にしては、あっけない最後だ」
「歴史は繋がっていくものだね。竜を倒した王子様が、囚われの姫を助け……そして――」
「何を言っている」
「あの子の命もまた、今に至るまで続いているということだよ。連綿と続く、時代の一糸として」
スタンレーはまるで意味が分かっていなかったが、これは未来を知る人間であれば分かることだった。
砂漠に突如として現れた竜、その討伐で生き残った一人の冒険者、そして……心に闇を抱え、城に閉じこもった姫。
この一つの流れがどこに進んでいくのかは、思い返してみればよく分かることだろう。
まさしく、できすぎたように歴史は理路整然と流れている。
「思い残すことはなにもないのか?」
「あちらに行ったぼくからすれば、もはやその未練はないよ。ここにぼくとして居られる時間は貴重だけど、ぼくはぼくじゃなくても構わない。面白いことに、年を取ってからと何も変わらないことだよ」
「……わけのわからない話だ」
彼の中には、具体的な枠組みがなくなっていた。彼は自分がバリオンである必然性を感じなくなり、存在しているというだけで喜びを感じられるような性質を獲得していたのだ。
それ故か、彼の身からは復活を遂げたアカリのそれを想わせる力が放たれていた。
「戻れ」
バリオンはなにも言わず、消え去った。こうしてしまえば、残り時間があろうとなかろうと、強制的に対象を消すことができる。
「これで、おれの力が《天導師》さえも上回っていることが分かった。この世界で、おれに勝てる人間はそう多くはないだろう」
彼の目当ては、公式の部隊で最高峰の力を誇るバリオンの撃破だった。
その戦いで、オキビとの戦いにおいてどれほど戦えるか、それを占おうとしていたのだ。
『だが、世界は広かった。おれより強い奴は多かった。おれと同じようなことを考える人間も、多かった』