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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1048/1603

「……ちっ、してもしゃあねぇだろ。オレがもう死んでるっていうなら、抵抗するだけ無駄じゃねえか」


 あまりの潔さに内心で驚きながら、彼は小さな声で「お前の望みがあるなら、一つだけ叶えてやろう――その代わり、お前はその身朽ちるまで、おれの(しもべ)だ」と取引内容を告げた。


「死んだ奴に願いなんて……いや、その竜牙刃、一度だけ貸してはくれねぇか」

「……分かった」


 この術に関して、彼は幾度か実験を行っていた。

 この意識が持続する時間に蘇生対象の資質が関わってくること、そして死亡回数や欠損具合に影響し、最終的には消滅してしまうこと。

 自分をここまで苦しめた男ならばしばらく使える、という自覚はあったものの、自我が消えた後にナイフを奪い取るのは容易だと考えたのだ。


「わりぃな」


 何もかもを悟りきったような態度に違和感を覚えながらも、スタンレーはナイフを手渡した。

 すると、彼は何かを念じながらナイフに何かを刻み込み――指でなぞってはいるが、傷などはみられなかったが――すぐにナイフを返してきた。


「しかし、不思議なもんだ。あんなに欲しかったものが、こんな近くにあったなんてな……人として、ベイジュ(オレ)として、それを自覚できたことは、お前に感謝しなきゃならねぇかもな」

「……なんのことだ?」

「さあな、これでオレの願いは終わりだ。さっさとオレを戻して(・・・)くれ」


 戻すの意図が分からず、眉を寄せたスタンレーだが、彼の意志に反する形で仮面の構築が完了した。

 途端、それまで満ちていた精気は消え去り、屍人形は両手をぶらんと脱力させた。


「……あいつが見てきたのは、一体なんなんだ? まさか、死の先にも何かが――いや、考えるだけ無駄なことだ」


 死者を蘇生させる《幻影召還(ペルソナライド)》、その弱点は死してすぐの人間しか蘇生できないということ。

 あと四年早くこの術を獲得できていれば、姫の想いに応えることも――謝罪することも叶っていただろうということは、あえて考えていなかった。

 そもそも、死んでしまえばその命の連続性は途絶える。一時的な蘇生で得られるのは、自己満足な喜びでしかないことを、彼はこの時点で悟っていた。


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