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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1045/1603

 ――十四年前、カーディナル城にて。


「アリト、どういうことだ!?」

「……分からない。だが、姫様は――」

「馬鹿言うんじゃねえよ。あいつが……おれよりも強いあいつが、死ぬわけねぇだろ……あいつはまだ……十四だぞ……死ぬわけねぇよ」


 巫女失踪事件、十四才になった巫女が突然姿を消したという事件は、王家の中で密に扱われていた。

 こうした失踪事件は過去何度もあり、民としての認識は巫女が聖地に入り、次期巫女に力を分け与えて出家するというものと思われていた。

 だが、実際は違う。姫は突然消え、王家も混乱していた。


 表向きには姫を許嫁(いいなずけ)としたアリトには、この報告が来ており、彼を経由することで盗賊――こちらの表向きは一般人――のスタンレーにまで到達した。


「僕は首都で行われる葬式に参加する……君は、どうする。望むなら、カーディナルの人間として通すよ」

「……通すなら、あいつの友人ということにしろ」

「……分かった」


 スタンレーはまるで状況が理解できず、流されるようにして、気付いた時には葬儀の会場で座っていた。


「あいつは……死んだのか?」

「……ああ」


 アリトは彼の顔を見ようとしなかった。常に強くあり、常に獰猛だったスタンレーがこうした状況になっていると確認する度に、死を認識せざるを得なくなるから――自分が弱くあることができなくなるから。


「嘘だろ、おい……」


 意識せず、涙が流れた瞬間――彼の瞳に虹色の光が宿った。

 刹那の内に、意識は虹色の光の渦の中に落ち、音や風景、匂いや味や感覚といったごった返しの中、彼はそれを見た。


 燃えさかる炎の中、赤茶色の髪をした男がストラウブを殺す場面を。


「これは……父さんが、殺される?」


 涙があふれ出すが、自然とこの風景が初めて見るものではないと彼は気付いた。

 幼い頃、意味も分からずに見た光景の中には、これが含まれていた。三つになる前ということもあり、何も理解できてはいなかった。

 だが、今はおおよそのことが見えていた。


「そうか……おれは、この恩返しをする為に、生きてきたんだな。おれは今まで、無駄な時間を歩んできた」


 目を覚ました瞬間、彼は動転した状態がすっと抜けたように、落ち着き払った態度で席を立った。


「お、おい」

「悪い、用事ができた」

「待てって!」

「最前列の子供……確か、名前はコアルだったか」

「あ、ああ、そうだ」

「あいつの遺言だ。自分の影を背負わないでくれ……だそうだ」

「影を……姫様がそんなことを――って、おい!」


 騒ぎ立てるアリトとは正反対に誰も声を荒立てず、スタンレーは静かにその場を後にした。

 姫の死をきっかけに、彼は原初の死――育ての親が死ぬ場面を思い出したのだ。


 そして、認識を取り戻したからといって、悲しみ消えない。姫の死もまた等しく、彼の中では紛れもない一つの死なのだ。


「もう二度と、おれの大切な人を殺させたりしない。もう誰にも、おれのものを()らせたりしない」


 彼は姫のことを忘れようとした。彼女に時間を費やしたのを仮の自分とし、本当の自分が今から始まると認識させる為に。

 死の定めを持つ父親を救うことで、救えなかった過去を救う為に。


『そしておれは出会う。おれの人生にかかる(すす)――死神に』


 葬儀の後、彼はストラウブと合流し、ダストラムの本部へと向かった。

 集まりにこそ遅れることになったが、そこで自分の人生のラストボスとも言える、《焦土師(ファイアースターター)》のオキビと出会うことになった。


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