5Δ
――十五年前、フレイアにて……。
「友達に聞いてみたけど、やっぱり行方不明の貴族とはか居ないみたい」
「だから、何度その話をすれば分かるんだ。おれはただの――」
「そういう言い方はやめて。私の彼氏なんだから」
「……」
二人は関係を深め、恋人同士の関係になっていた。とはいえ、スタンレーは依然としては連れない態度であり、むしろアリトとの友情が深まっていたほどだった。
「やっぱり、あいつじゃ駄目なのか?」
「アリト君のこと?」
「ああ」
「前にも言ったけど、住む世界が違うの」
「おれもだ」
「……でも、スタンレーは強いよ」
「そんなことは些事だ。それに、話を逸らすな」
姫は視線を逸らしながらも「本当のこと言うと、アリト君と付き合うのは、私に定められた運命だと思うの」と脈絡のない大きな話を始めた。
「運命、一体何のことを」
「私達巫女は、そうして時代を創っていく人達を支える為に生まれてくるの。そして、アリト君はきっと、そう遠くない未来にこの国――火の国を変えるような偉業を果たすわ、きっと」
「神とやらの知らせか」
「そうかもしれないね」
「ならばそれに従えばいい。神もあいつも、それで喜ぶ」
「私はっ! ……私は、どうなるの。私は自分で選んで、自分で生きていきたいの……それに、私はスタンレーのことが――」
「言うな」
厳しく叱りつけるような口調に、彼女は引いてしまった。
しかし、落ち込みながらに、姫は続く言葉を紡いだ。
「……ほんとを言うとね。アリト君が偉業をなすのは、きっともう少し後……もっと大人になってからなの。だから、あの人がそこに辿りついた時、辿りつこうと走っている時、私は一緒に居られないと思うの」
「馬鹿言え、お前もまだ子供だろ」
「……あはは、そうなんだよね。まだ、子供なんだよね」
笑いながらに、姫の目は涙で潤み、作り笑いが余計に際だって見えた。
「ただ流れに身を任せて、それでアリト君と付き合っても、きっとアリト君は私の影を背負って生きていくことになっちゃう。だから、私達は友達で、本当に運命の人と出会った時、その人を真剣に守っていってもらいたいの」
「だから、どうしてお前はそんな死ぬような――」
姫は無言で抱きしめた。以前と同じ――それ以上の近さだが、以前の燃えさかるような熱気はない。
むしろ、火が弱く、消えてしまう寸前のような冷たさがあった。
「お、おい……」
「聞かせて、スタンレーは私のこと――」
「だから、おれは――」
「ふふっ」という笑い声が耳元でなると、直後に凄まじい熱気が周囲に満ちた。
「べーっだ! 分かってたよ。何年も付き合ってそれなんて、本当に最悪っ!」
そう言いながら、彼女は笑っていた。涙は消え、純粋な笑みを浮かべていた。過去に見たそれと何も変わらない――むしろ、何一つ変わっていないという異常さを含んだ笑いを。
「なら私の方からフッてやるって! スタンレーを……分からず屋の最悪男を――焼き尽くせ《裁きの劫火》」