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「(《怒濤の嵐》による飛行は反撃を招きかねない……だが、能力での飛行ともなると、奴らに届くかどうか)」
互いに得意とする完全飛行を奪われ、一人の能力者の力を借りる形で空中戦を行っていた。
普通に考えれば、能力を体系化するという偉業を成し、当人以上に使いこなしているスタンレーの方が優位になるはず。
しかし、結果と状況を見る限りでは、明らかにガムラオルス側に軍配が上がっている。
数値上では見えない何かが、彼らに優位をもたらしているのだ。
「(奴らの優位……その要因はなんだ。あんなハリボテの飛行に、何故おれの飛行が劣る)」
本質的な部分、彼はそれを見逃していた。
スタンレーはただ一人で戦う一方、ガムラオルスは二人で戦っているのだ。
人一人にできることは、いくら才気にあふれていたとしても、限りがある。もし無理に詰め込もうとすれば、その数だけ歪みを広げていく。
だが、二人となれば、負担は軽減できる。三人とも成れば、もはや個が背負う負荷は五指で数えられる程度だろう。
「皮肉なものだ……このおれは、この場の為に幾多の策を巡らせ、幾多の《秘術》を獲得してきた――だが、結局は全てが無駄だった。この場面、この時、全てを打開できるのはこのおれ自身しかいない」
「俺は無駄だと思っちゃいない。お前を倒すと誓った日から、鍛練を重ねたこの翼――お前と同じ、結局はこいつだけじゃどうしようもなかった。だがな、俺はこいつと歩んだ月日の内に、より大きくなった」
見解の相違だった。
スタンレーは恩人であるストラウブを救うべく、人生を費やし、そして残ったのは重傷の体と盗んだ能力一つだけ。
ガムラオルスはそんなスタンレーにリベンジすべく、翼の鍛錬を続けた。だが、いざ戦ってみれば、二人の人間に介抱――支えられているという姿だ。
互いに自己を極限にまで高めようとしながらも、一挙集中の道か、多くを手に入れようとするか、選択の分岐した道へと進んだ。
皮肉なことに、幾多の手札を手に入れたスタンレーは何もかもを失い、一つに集中したガムラオルスは土壇場で多くを得た。
二人の言うように、結局という捉え方をすればこの通りだ。だが、二人の経過は大きく異なっていた。一つ一つの歩みの方向が、結果的にこの大きな展開の相違を生み出したのだ。
「……くだらない問答だ。おれ達が会話をしたところで、意味はないだろう? ガムラオルス」
「ああ、さっさと決着を付けようぜ――スタンレー」
空中で睨み合った二人は、互いに突進の手を取った。
両者とも、持久戦をしようとすればできる状態だった。しかし、互いに決着を望んでいたのだ。
消耗の末の決着ではなく、真正面から衝突することで成立する決着を。
互いの叫びが重なり合い、二人の刃――剣と、橙色の刃が衝突した。