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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1034/1603

12f

 発生した《魔導式》は起動の後、消滅することなく主の体へと吸い込まれていった。

 途端、竜巻は消え去り、彼を空に留める力は別のものに変わった――トリーチがそうしたように、赤色の力場へと。


 それを見た瞬間、ガムラオルスは理解した。それが飛行能力者と同様の力である、と。


「(だが、あの力は簡単に使えるようなものじゃない……それに、一度だけが、あの力は既に破っている)」


 沸き起こる感情の本流を押さえつけながらも、彼は冷静に分析を行った。

 だが、一つだけ抜け落ちている部分があった。かの飛行能力者はその昔、《武潜の宝具》を用いることで飛行を再現していた。

 純粋な力場による空中戦は未見(みけん)である。ただ、それについても容易に使えるものではない、という認識が在る為、完全な抜け目ではなかった。

 その読みは間違いではない。ただ、スタンレーという男は、通常の計りでは読み切れない才気を有しているのだ。


 まさに接触するという瞬間、司書は驚異的速度で降下を――地面に引っ張られた。

 その一瞬の光景にもかかわらず、ガムラオルスはしっかりとその一部始終を確認したのだ。

 その動きは明らかに降下とは異なり、背中に紐でも付けられ、引っ張られていったかのような挙動だった。


「(まだ使い慣れていないのか?)」


 彼がそう感じるのも当然で、トリーチの力はここまで急激な動作を取ることもなく、同等の速度を叩き出すことができるのだ。

 実際、この一着については完全な読み違えだった。彼がこの能力(ちから)が発動されたのは、今回が初めてである。


 急降下していくスタンレーだが、咄嗟に力の向きを――噴射点を切り替え、自身を空中に留めた。


「なるほど、なかなかに面倒な力だ」

「……っ」


 負傷しているとは思えないほど、彼は圧倒的な余裕を(たた)えていた。

 たった一回、それもこの短時間でトリーチがガムラオルスとの戦いで掴んだ飛行を体得したのだ。


 とはいえ、色々と今回は事情が違う。スタンレーは本人の姿を見ることで、飛行が可能であるという確信もあり、どのように飛んでいるのかも知っていた。

 これは実に大きな問題だった。能力の要諦を語るにおいて、当人の認識、意識というのは欠かせない部分である。

 トリーチの例にしても、彼は方法も分からずに努力を続け、結果として飛行は不可能という結論に辿りついてしまった。

 その上、《天駆の四装》という補助具を用いることで、飛行の可能性を完全に破棄してしまったのだ。


 そんな彼が再び空を目指そうとしたのは、他ならぬガムラオルスの飛翔(・・)する様を――がむしゃらに吹っ飛ばされていた彼の姿を見たからだろう。

 そうした積み重ねの末が、彼の飛行だった。

 だが、《秘術》もそうであるように、スタンレーはそうした人間の生きる軌跡を画一化し、結果だけ抽出して利用しているのだ。


「まったく、便利な能力だ。調整さえ行えば、負荷もなく滞空状態を維持できる――その上、この力はそれだけではない」


 彼は滑空状態――滞空状態とも言えるが、僅かに落下している――のまま、動きを止めたガムラオルスに向けた。

 瞬間、射程も軌道も無視して、赤い力場が彼の首を締め上げた。


「かはっ……!」

「力場の発生。この能力はシンプルで、故に使いやすい」


 皮肉なことに、彼はこの能力を――《駝鳥の白昼夢(スカイウォーカー)》を当人以上に理解していた。

 そう、この念動力というものの強みとは、なにも飛行に限るものではないのだ。その真価は軌道のない攻撃が行えるということだ。

 今の一撃は首に向けられたが、もし生死に関わる血管を結紮(けっさつ)されたのならば、その瞬間に勝負が決することになる。

 人体構造を医学的に理解しているスタンレーであれば、その場所を目視せずとも大味(おおあじ)に当てることは容易にできるだろう。


 だが、首を締め上げられながらも、ガムラオルスはその点には目を向けなかった。

 彼が見たのは、純粋な――義憤だった。


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