11f
「(どういう……いや、今が好機だ)」
当初の予定通り、特攻を仕掛けたガムラオルスは棒立ち状態のスタンレーを見て、奇妙に感じていた。
「どうして、奴は反撃しないんだ」
不可解さが冷静さをもたらしたのか、彼はそれに気付いた。
まさしく、自分の攻撃は不合理の塊だったのだ。そして、それは往々にして自分と繋がり得ない、と確信したのだ。
ガムラオルスがこの状況で動き出すとすれば、それは――スケープが何かをした場合に他ならない。
「《反射追尾》」
捨て身の特攻に続くような形で、スケープの詠唱が砂漠に響き渡った。
「ちっ……読み違えたか」
吹雪の中では声も掻き消えかねない。スタンレーはそれを恐れ、瞬時に術を中断させたのだ。だが、それによって仕留めるチャンスを逃した。
だが、完全なミスというわけではない。あの状況、吹雪の中で詠唱が聞こえないという読みはたぶん間違いではないだろう。
そして、発動のタイミングも切断からほどなくして。下手に深い負いすれば、その時点で決着がついていた――かもしれないという状態なのだ。
「スタンレーさん! ワタシは……ワタシはガムラオルスさんに付きます」
「……ガムラオルスに付くだと? ……はは、初めから分かりきっていたことだ。この土壇場で裏切ると読めなかったおれは……結局、甘さを捨て切れてはいなかった」
彼が時折見せていた優しさ。それは紛れもなく、本当のものだった。
彼女が裏切るはずもない。裏切るという選択が彼女には存在し得ない、そう判断したのだろう。
予見に優れ、各所に手を打つような男でさえ、この点だけは読み違えた。それこそが、全てを大きく変化させた。
「フッ、これで決着はついたな。お前の戦術は《秘術》を主体とした高火力、変幻自在なパターン――この反射が存在する限り、お前に俺は倒せない」
一見、相手に投了を呼びかける内容にも思えるが、彼にその気はない。
絶対的な優位から相手を叩きつぶす、それ以外に何もないのだ。
「おれが、《秘術》だけの男だと思うか?」
そう言うと、司書は不敵な笑みを浮かべた。
「戯言を……」
「一つ、面白いことを教えてやろう――おれは《秘術》であれば、どんなものでもコピーすることができる。だが、気付いた……能力もまた、《秘術》と同様の仕組みで動いているとな」
「能……力」
「そうだ、見せてやろう。これがおれの見出した力だ」
瞬間、彼の羽根が一枚抜け、前方で《魔導式》に変換された。
嫌な予感がしたのは言うまでもなく、ガムラオルスは事前に潰そうと画策した。無論、接近の速さは先ほどまでと変わらない。
轟音を撒き散らしながら飛翔するが、相手の方が僅かばかりに早かった。
「《駝鳥の白昼夢》」