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スタンレーは地下アジトに到着し、おぼつかない足取りで歩みを進めていた。
「ボスは……ボスは、どこだ」
肺に開けられた穴を通じ、彼は導力によって血を外へと吐き出していた。
そして、損傷部を光属性の導力で治療――すると同時に、塞いでいた。
卓越した導力制御を持っているからこそできる技だが、当然のこと、肉体を完全に復旧させることはできない。
歩く速度は普段よりも遅く、展開された翼が微弱な推力を生み出すことで、その歩みを補佐していた。
次第に、彼は手遅れであることに気付きだした。
通路の奥から感じる熱感。橙色に揺らめく光、煙、それらは彼が予知した光景だった。
過去に予知した光景とは変わりながらも、結果だけは何一つとして変わっていない。
「おれは、未来を変えられなかったのか?」
視界には、燃えさかる町の中、ウルスの炎剣によって刺し殺されるストラウブの姿が映り込んでいた。
「何が間違っていたんだ? ……未来が、間違っていたのか?」
地下アジトの通路内、フィアの放った光線により、背後から心臓を狙い撃たれたストラウブの姿が脳裏に過ぎる。
「なんだ……どういうことなんだ……こんな場面、見たことがない」
善大王とストラウブが何かを話し、竜牙刃を突きつけたストラウブに対し、善大王は何かを叫びながら――。
「(これは、可能性の世界……? どうして、生き残る世界がないんだ)」
彼は絶対直感を使っていたからこそ、この風景がただの幻ではないことを悟った。
全てが全て、起こりうる未来の姿。その全てが、スタンレーの選択によって変えられたかもしれない未来。
だが、皮肉なことにどんな手を打とうとも、最終的な結果は変わらなかった。どのような形にしろ、ストラウブは誰かに殺される。
彼には分からなかったが、その原因の全ては――彼自身にあった。
この未来は全て、ストラウブがボスとなった次元での出来事だった。彼は資質のない人間に力を与えてしまったのだ。
力がない者は、身の丈にあった存在でなければならない。その限りを越えてしまった場合、その歪みの大きさに比例して不幸が襲いかかる。
順路を追って手に入れた力でなければ、それが根付くことはない。一発逆転で得た力など、主を滅ぼす以外に何もしないのだ。
そして、最も悲惨なのが、力を与える者も、そして与えられた力自体には悪意がないということである。
与える者はよかれと思ってそれをし、力はただの力に過ぎない。結局、それをどうするかを決めるのは当人に他ならない。
スタンレーはそれを理解していなかった。ストラウブという弱小盗賊では、盗賊ギルドのボスは荷が重すぎた。
運命が――時代が、それを否定した。司書の努力により、ほんの少しの時間を許されただけにすぎなかった。
燃えさかる道を進んだその先に、運命の末路が転がっていた。