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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1025/1603

3

「防ぎきったか……だが、あの様子では追撃には耐え切れまい」


 スタンレーは翼の一枚を引き抜き、投げつけようとした。

 彼の切り札にして、数多くの局面で使ってきた《秘術》――天舞の細氷(ダイアモンドダスト)だ。


「これで、未来は変わっ――」


 刹那、彼の目はそれを捉えた。

 嵐の中で不自然な光を――黄の光を放つ点が存在していることに。


「あれは……まさか、善大王なのか!?」


 目をこらした瞬間、善大王もまた彼の視線に気付いたらしく、口許を緩めた。


「(あの嵐を利用して、空へと舞い上がったか……だが、奴はどうして傷を負っていない……いや、違う)」


 彼は導力の制御によって、傷の修復と防御を行っていた。防ぎきれないことを分かった上で、創傷を治療しているのだ。


「フッ、ならばおれが引導を渡してやろう……ウェザー《疾風(サイクロン)》」


 風の向きが変わり、嵐のまっただ中に居る善大王に向かって飛翔した。

 両手には鋭い黄の導力刃が形成されている。相手の属性を以てしてトドメを刺そうとする辺り、彼はどこか酔狂であったのだろう。

 だが、なんの属性であるかはさほど影響をもたらさない。あれほどまでの無茶をやった以上、善大王は既に死に(てい)であってもおかしくないのだ。


 怒濤の嵐へと突っ込もうとした瞬間、司書は嵐を解除し、攻撃射程内に突入した。


 空に留まる力を失った善大王は落下し始めるが、それには気を向けていないとばかりに、構えを取った。彼もまた、導力を纏った拳で応じたのだ。


「消えろ」

「《驚天の一撃(アメイジングブロウ)》」


 《翔魂翼》のそれを思わせる挙動で、彼の拳を纏っていた導力は逆噴射を開始し、襲いかかるスタンレーへと急接近する。


「愚かな――終わりだ」


 導力の刃は善大王の導力を――掌を貫いた。

 しかし、それもそのはずである。彼は攻撃のリソースを噴射に()いていたのだ。これでは、互角か、それ以上の実力を持つスタンレーの導力刃を破壊できるはずもない。


「無駄な死だ」

「だが、お前は乗ってくれた。賭けは俺の勝ちだな」


 賭け、という単語を聞き取った瞬間、司書は咄嗟に下方を確認した。地上で待機しているウルスが何かをしでかすのではないか、と予測したのだ。

 だが、肝心の切断者は地面に突っ伏しており、何かを行えるような状態ではなかった。


「世迷い言を……」

「天光の二人を……舐めてもらったら困るな」


 刹那、スタンレーは空を見ていた。

 気付かぬ間に、彼は打ち抜かれていたのだ。


「空が……まさか、そういう、ことか」


 突き抜けていった橙色は空の一点の如く――星の如くに、彼の視界に収まった。それで、彼は悟った。


「(あの《皇の力》……真の狙いは、俺から注意を逸らし、その間に……天の巫女を完全復活させる、ことだったのか)」


 彼の視界は、自身が生み出した黒雲と空を覆い尽くす白い繭が埋め尽くしていたのだ。

 だからこそ、地上でただ一度だけ、ただ一本だけが接触したフィアのことなど、目に入っていなかったのだ。


 無論、それは地上に立っていたウルスでさえ、上空の攻防に目を奪われて気付かなかった。

 気付いたのは、善大王が自分とフィアを守れ、と言った時――フィアの肉体から魔力が放出され始めたと探知した時だ。


「二人でようやく一人前の星――今回はもう一人の手伝いを求めることになったが、十分だろ?」

「くっ……」


 術を発動させようにも、激痛が邪魔をして思考がまとまらない。その上、肺を打ち抜かれた為か、発声を行うことさえ困難に陥っていた。

 彼の体がまだ残っているのは、あまりにも距離が離れていたからだ。もし、地上での戦いであったならば、彼は一瞬のうちに蒸発していたことだろう。

 だが、それが救いや逆転の糸口になるとは思えなかった。既に、スタンレーに戦えるだけの余裕は残っていなかった。


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