運命に囚われし者
――炎上するダストラムにて……。
「ウルス、そっちはどうだ?」
「こっちは準備万端だ」
二人は顔を見合わせると、すぐさま動き出した。
ムーアが素手で突っ込んでくるが、善大王はそんな彼を迎え撃った。導力によって強化された両腕は、死してなお強靭な肉体を有する男の行動を封じた。
ウルスはそんな様子を確認することもなく通り過ぎ、奥で《魔導式》の展開を行っているバリオンへと迫る。
「何度も殺さなきゃならないってのは中々に辛いな」
「……」
屍人形はなにも答えず、幻術を発動させるべく何かを呟き出した。
「させるかよ。《光ノ二十番・光弾》」
展開していた六つの《魔導式》は一斉に起動し、光弾を形成する。
ムーアもまた、これを回避すべく、咄嗟の動作を取るが――善大王の鋭さはそれを遙かに上回っていた。
逃げようとする位置には既に光弾が置かれており、避けたつもりが自ら直撃しにいく、という奇妙な光景が作り出される。
その上、攻撃にヒットした衝撃で吹っ飛ばされたその先にも光弾が待ち構え、命中は連鎖していく。
対魔物戦においては心許ない術ではあるが、忘れてはならないことがある。
そもそも、善大王のこうした下級術運用は、対人戦に特化した形なのだ。
相手が人の形をし、人間の耐久しか持たず、人間的動作しかできないのであれば、最大級の効率で運用することができる。
「だがな、あんたはもう死んでいる。だから……手加減はしない」
幾度も戦ってきたからこそ、もはや屍人形のムーアは敵ではなかった。
なにより、出現する度に彼の強度は低下しているのだ。その上、今回はベイジュという壁役がいない為、彼の光弾を止められる者がいないのだ。
六発に追加された三発目を受けた時点で、ムーアは倒れ、粒子となって消えた。
「さて、俺の方は――」
予想通りというべきか、善大王が決着を付ける頃には、ウルスもまた己の勝負を終わらせていた。
術者のバリオンは、生前の速度を失っており、彼の放つ炎の刃によって斃されていた。
「(戦力を分散させたのは失敗だったか)」
スタンレーは《秘術》一つを組むだけに、一枚のカードを使ってしまった。
彼自身の読みでは、この術で二つ三つの《秘術》は組み上げられ、収支としてはプラスになるはずだったのだ。
だが、ベイジュを欠いたこと、二人が屍人形との戦いに慣れていたことが、その計算を狂わせた。
もし、トリーチがいたならば、初見の相手ということもあって多少の時間稼ぎはできたことだろう。
「ウェザー《落雷》」
凄まじい速度の落雷が襲いかかるが、善大王は右手を掲げるだけで、その場から動こうともしなかった。
「《救世》」
見るまでもなく、彼は自分に攻撃が放たれることを読み当てた。
無論、それだけに留まらず、彼の放った《皇の力》は空へと伸びていき、スタンレーを狙い撃つ。
「(こちらの《魔導式》を消すつもりか)」
たった一度の発動で、迫り来る攻撃、彼の手配した《魔導式》、そして飛行能力を奪い去る。スタンレーからすれば、《皇の力》こそ厄介なものはないだろう。
だが、彼は気付いていた。あの力は――光糸は、標的との接触を持ってして消滅するのだと。
「天空に雷鳴を轟かせよ! 《雷雲招来》」
展開していた《魔導式》は起動し、巨大な、大蛇の如く広がりを持つ雷雲へと姿を変えた。
早々に空へと到達していた《皇の力》だが、命中した箇所が歯抜けになっていくだけで、術自体は止まらない。