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善大王はついに攻め時と判断し、術を発動する。
「《光ノ二十番・光弾》」
光弾がフォルティス王に迫る。今回は武器のリーチが短いこともあり、回避行動に入った。
続いて二発目が標的の背後から放たれ、先ほどと同じようにフォルティス王の逃げ道を封じる。
「問題は避けられないことじゃない、耐えられるかだ」
意味深な言葉が呟やかれたが、フォルティス王に攻撃が直撃した。
背面からの一撃を受け、フォルティス王の体は善大王側に迫ってくる。ある意味予想外な展開を前に、善大王の判断が刹那鈍る。
一瞬で済む自体が彼の有能さを示す具体例ではあるが、それですらフォルティスの手には届かない。
「どうにか維持できた。《水ノ百十番・水節棍》」
青い《魔導式》がフォルティス王の背後で煌き、主の手元に水のフレイルが精製される。そのまま間髪居れずに鉄球状に構築された水の球を善大王に向かって放った。
それだけならば善大王が持っている術で打ち落とせる。とはいっても、光ノ百三十九番・光子弾という決め技を切らなければならない。
ここまではすぐに思い浮かぶ。いや、善大王は既に最終到着地点にまで思考を巡らせていた。
フォルティス王は片手に持っていた鉾を構え、善大王に切りかかろうとしている。弾き飛ばされている最中とはいえ、彼ならばその反動を逃がして攻撃に移ることは可能だろう。
そうなれば、術を一発防いでも攻撃は止まらない。光ノ二十番・光弾を放ったとしても、フォルティス王の動きを僅かに遅らせるのが限界。
最善の手を打ったとしても近接戦に移行。そうなれば武器のない善大王に勝ち目はない。
良くも悪くも意趣返し。この手札、この状況では誰がやっても同じ選択肢しか現れない。素手で二刀流の得物を持った近接の達人を倒せるならば話は別だが。
「……ここまでか」
そう言いながらも、善大王は笑っていた。
「さすがは王様、俺の力じゃ一歩届かなかった。だが、俺の勝ちだ」
善大王が右手を構えた瞬間、フィアは叫んだ。
「ライト駄目! 使わないで!」
「フィアは口を出さないでくれ! これは俺だけの個人的な戦いじゃない、この国の──シアンの未来が掛かっている戦いなんだ!」
それを聞いた途端、シアンとフォルティス王の顔色が変わった。
「駄目ったら駄目!」
「っても、このままじゃ俺も終わりなんだよ! 救……」
「ライトの馬鹿ああああああああああああああああああ」
フィアが地面を蹴りつけた瞬間、瞬間的に《魔導式》が展開され、術が起動する。
橙色の光弾は直線に進み、善大王へと迫ってきた。
「(天ノ十番・空弾か。なら──)」
善大王は軌道予測を瞬時に済ませて回避行動を取った。そうなるとフォルティス王が次のターゲットとなる。
すぐに察知し、フォルティス王も攻撃を中断して避けるが、それで終わりとはならなかった。
「使わないでって、言ったのに!」
気づくと、既に《魔導式》が十個展開されている。こうなると回避できる次元を超えてくる。
それらを避けていく最中、フォルティス王は興が削がれたかのように、鉾を地面に投げ捨ててその場を去ろうとした。
「くだらないね。もう僕は飽きた」
「おい後ろ!」
フォルティス王が振り返った瞬間、橙色の光弾が彼に直撃し、吹っ飛ばされながらも宙を舞う。
痛々しい音を立ててフォルティス王は地面に叩き付けられ、そのまま意識を失う。
幸い、一撃で人を消滅させる威力には到達して居なかったが、それでも意識を落とすには十分な威力だ。
「おいやめろ! 俺はもう使わない! だからやめろ! 落ち着け!」
「馬鹿ライト! 馬鹿ライト! 使ったら駄目なの! 絶対駄目なんだからあああああああああ」
地面を蹴りつけた瞬間、地面に隠れていた《魔導式》が起動する。
その瞬間、上空に橙色の薄い円盤が出現し、そこから無数の橙色をした光弾が放たれた。
「(おいおい、天ノ五十五番・空襲かよ。こんなの聞いてないぞ!)」
対少女戦に関しては凄まじい力を発揮する善大王だけあり、焦りながらもフィアの攻撃を完全に回避していく。
ただ、それすらも奇跡の次元だ。彼女は意図してターゲットを定めているわけではない、ただ乱雑に飛ばしているだけなのだ。
そうした感情の揺れ幅だけで攻撃の向かう位置を逆算し、そしてそれを躱す。彼のやっていることは人間離れしていた。
「頼む、俺を信じてくれ!」
真剣な善大王の眼差しを見た途端、フィアは泣き止み、攻撃の手を止めた。
「本当?」
「ああ、本当だ」
「うん、ならもう一度だけ信じてみるね」
全てが解決した、そうした油断が生まれた。
刹那、背後から飛んできた一発の光弾を察知できず、善大王は一撃で気絶した。
「ぎゃああああああ! ど、どうしよう! ライトが死んじゃう!」
「……フィアちゃん、心配しないでください。私が治しますから」
「治すって……シアンは術が使えないんじゃ?」
言いかけ、フィアは納得したように「悪いわね。お願い」と落ち着いた口調で言った。




